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第一章 十字架と少女 #1(「精霊たちのいるところ」小説)

私は普段、東京のとある美術館で非常勤の学芸員をしている。
美術館は言わずもがなだけど、なかなかの呪詛がついた物品を展示してあるので、それのお祓い&お清めを兼ねて、非常勤という体裁で雇われているというわけ。

ここの美術館館長と父が知り合いということもあり、館長を通して陰陽師としての仕事が舞い込むという仕組み。

今回は、これから学芸員の資格を取るという大学生の研修の同行を依頼されたので、とある遺跡にやってきた時のお話。


高速から降りて国道に入ってすぐの住宅街にその遺跡はある。

遺跡と言っても、もう掘り起こして研究もあらかた済んだところで、何もすることはない。だけど、研究員の仕事体験ということで、遺跡発掘の見学を兼ねた穏やかな遠足のような研修だった。

まだ研究の済んでいない遺跡を見せるほうが、勉強になるのでは?!と思うのだけど、そんな貴重な遺跡を学生に触らせられないという、どこかの頭の硬いお偉いさんたちがいるのだろう。とにかく何もさせてもらえないのが学生の現状だ。


まず、そこの遺跡の地形を調べると、もう埋め立ててはあるけれど、昔は川が近くにあったようだ。昔の地図と見比べてみても、国道を挟んだ川沿いの道とその遺跡は直線で結ばれている。昔は国道ではなく、川とその遺跡を結ぶ道路のほうがメインだったのだろうなというのが見て取れる。

そして、その昔のメインの道路だったであろう方向へ行くと、そこには朱色に塗られた小さな祠が残っている。そこから遺跡は対角線状にあり、なんとも意味深な位置関係だ。
大体、祠だけ綺麗に残してあるのは、なかなか厄介な意味があるからだ。しかもきちんと塗り直されていて、常に綺麗にしているのが非常に怪しい。

ということで、この祠と遺跡の位置関係は把握しておく必要がある。方位を確認すると、丁度、遺跡が西、祠が東にあたる。これもかなり正確な位置だ。これだけで、太陽信仰の時代と結びつけられるので、遺跡にしては比較的新しい時代のものと言える。

様々な遺跡が太陽と位置づけしていたり、月と位置づけしていたりするけど、日本の場合はさらに龍伝説と結びつけているところが多い。龍の通り道とか言われるやつだ。
ここでは川が鬼門になるので、あらかた水の龍神様と位置付けているのかもしれない。
その遺跡も、住居跡というのではなく、どうやら神様を祀っていた形跡があるらしいのだ。
そして、住民もそれを知ってか知らずか、遺跡が発掘される前から、その辺りに御供物をする風習が残っている。何もない、ただこんもりしている丘に、お供物をしたり、ザルにお金を入れて祈りを捧げたりしている。でも、住んでる方々にその経緯を聞いても、誰も真相を知る人はいない。ただ、みんながそうやっているからやっているだけ。
おばあちゃんの代からやってる。でも、理由は分からない、と、そう答えるだけなのだ。

車でわざわざ遠くから来る人もいるくらい。なぜだかパワースポットという噂もあるそうなのだけど。

そのこんもり丘を散策していると、十字架が落ちていた。
不思議なものだ。なぜこんなところに十字架のネックレスが?

ま、こういうものは触らないのが一番。


その日、いつもと何ら変わらない夜を過ごして、ベッドに入った。
我が家には猫がいる。猫はいろいろ見えるので、とっても重宝だ。猫の桃太郎(長毛種の雑種)は無反応だったので、そのまま安心して寝たのだけど・・・

次の朝、身体が恐ろしく重くて動けなくなってしまったのだ。
眠くって眠くって、起き上がれない。これはヤバい!遅刻する!と思っても起き上がれない。くっそ〜と思っていると、部屋から出ていく少女が。

すると、スッと身体が軽くなって起き上がることができた。

あらら、どこから来たんだろう。
桃太郎は何も反応しなかったのに。ということは、悪霊ではなさそう。


「ね、何してるの?」
と聴いてみた。

すると、恐ろしく色白の美少女。
真っ白の裸足。
着物は茶色でとっても質素。柿の葉で染めたものかな。
丈の短い着物なので、貧しい家柄なのか、それとも童と言われる年齢なのかもしれない。


・・・続く♪・・・





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