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大人の階段のぼる少女の安心の素にキュン 『サラと魔女とハーブの庭』 #511

大人の階段をのぼる時、置いて来てしまったものはなんだろう?

ふとしたことから学校に行けなくなったひとりの少女。自分の一番のお気に入りから卒業する姿を描いた『サラと魔女とハーブの庭』は、少女が自分のペースで歩き出す瞬間にキュンしてしまう一冊でした。

<あらすじ>
自分の気持ちをうまく言葉にできない13歳の由花。学校にも行けなくなり、春休みの間は、田舎でハーブショップを営むおばあちゃんの家で暮らすことに。ハーブの畑、おしゃれなお店、自分の部屋、日記帳。子どもの頃からずっと一緒だった“サラ”とも再会し、由花は少しずつ自分を取り戻していくのだが……。

由花は、子どもの頃に一度訪れたおばあちゃんのお店で“サラ”と呼ぶ友人と出会います。“サラ”は由花にしか見えないのですが、その後もずっと側にいてくれて、おしゃべりをし、笑い合い、励ましてくれる存在でした。

その“サラ”に、最近なかなか会えなくなってきた……。

不登校、「魔女」と呼ばれるおばあちゃんとの暮らしなど、かなり梨木果歩さんの『西の魔女が死んだ』を彷彿させる設定です。が、こちらは、心理学で「ブランケット症候群」と呼ばれる症状からの克服が描かれているのかなと思います。

「ブランケット症候群」とは、スヌーピーで有名なマンガ『ピーナッツ』の、ライナスの毛布への固執から名付けられた言葉です。「ライナス」といえば「毛布」というくらい、ブランケットが手離せないライナス。ですが、マンガの初期の頃、毛布を抱えていたのはチャーリー・ブラウンの方でした。チャーリー・ブラウンは毛布のことを「安心と幸福の素」と呼んでいます。

由花にとっての“サラ”も同じです。

ずーーっと友だちだよという幼い約束を信じつつ、その約束をもう守れなくなりそうなことを、由花自身が一番分かっている。大人の階段をのぼるためには、「安心と幸福の素」を手放す必要があります。迷いと不安のトンネルにいる由花は、自分を取り戻すことができるのか。

作者の七月隆文さんはゲーム『ときめきメモリアル2』のノベライズでデビューされたそう。そのせいか、とても映像的な小説だなと感じました。そして、匂いも感じさせてくれます。

ハーブの香りって、さわやかだけど力強いものもありますよね。季節は春。命の香りに包まれて、由花は“サラ”の正体を知ります。その瞬間、あったかい気持ちになりました。

「どんなつらいことだって永遠なんてない」。


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