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生きる力を結ぶ小鳥の物語 『リボン』 #393

子どもの頃、文鳥を飼っていました。わたしが1歳くらいの時の写真に写っているので、たぶんすごく小さい頃から我が家にいたようです。記憶にあるのは亡くなった時のことなんですけどね……。

法事で父の実家に行っている間に、カゴが荒らされていたんです。まだ5歳だったわたしは、大泣き。

「キツネか猫やろ。あきらめなさい」

母のそのひと言がとても冷たく思えて、しばらく口を利きませんでした。

鳥は翼を持っているだけに、ふとした瞬間に飛んで逃げてしまうこともあります。空を飛ぶ姿に自分を重ねてしまう一方で、鳥の方は、家に帰りたいと思うことがあるのかな。

小川糸さんの小説『リボン』を読んで、そんなことを思いました。

ある日、おばあちゃんのすみれちゃんがお団子ヘアの中で、ナゾの卵を温め始めたところから話は始まります。孫のひばりちゃんも協力して、温度を測り、転卵し、約3週間後。誕生した雛はオカメインコでした。

濃いオレンジ色の頬紅を塗った、化粧が派手なインコという表現に、ちょっとヤンキーなイメージでしたが、画像を見るとかわいいなーと思っちゃう。リーゼントのような髪型がいいですよね。この子はボディーがグレーですが、雛はレモンのような黄色でした。

リボン2

(画像はWikipediaより)

「リボン」と名付けられたインコは、いたずらしたり、歌ったりしていたものの、ある日、カゴを抜け出してしまいます。ひばりちゃんの呼び声にも返事せず、黄色い残像だけを残して飛び去っていく。

ここから「リボン」は、いろんな出会いを繰り返していきます。子どもを失った女性、引退同然だったイラストレーター、周囲の友だちと自分を比べて劣等感に悩む青年。さまよう人たちに、生きる力を結んでいくのです。

オカメインコを育てる上で、最も難しいのが幼鳥期だそうです。デリケートな鳥のため、雛を育てるのは簡単ではないそう。

この難しい時期を、すみれちゃんとひばりちゃんは強力なタッグによって乗り切ります。そんな「リボン」だからこそ、愛を伝えられるのかもしれません。たっぷりと、全身に、ふたりの愛を浴びていたから。

小川さんの小説には、母と娘の物語も多いのですが、血縁ではない「家族」の形が描かれることも。実は、すみれちゃんとひばりちゃんの関係もそうでした。ですが、ふたりにとって、血のつながりはあまり重要ではないんですよね。

「魂は心に守られ、心は更に体に守られています」

すみれちゃんはそう言って、いつか自分がいなくなってしまう時のことをひばりちゃんに語っていました。

わたしが5歳の時に経験した文鳥の死は「弱肉強食」と「自然の摂理」を教えてくれました。命はいつか消えてしまうものだけれど、「リボン」で結ばれた魂の絆は消えないのかもしれない。

長い時を経ても「リボン」が覚えていた言葉が、しみじみとあたたかい物語です。

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