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官能+無邪気+超能力で描き出す「藪の中」の悲しみ 映画「プレイヤー/死の祈り」 #346

「わたしは10歳の時、父を殺した」

そんな衝撃的な告白から始まる「プレイヤー/死の祈り」は、ホラーなサスペンス要素あり、家族の愛もたっぷり描かれつつ、神秘の力も登場するという、ジャンルレスな映画です。女優として活動していたケイシー・レモンズの初監督作品。

<あらすじ>
1960年代。ルイジアナ州で外科医をしているルイス・バチストは、妻と3人の子どもと暮らしている。ホームパーティの際、末娘のイヴが父の不倫現場を目撃。大きなショックを受けたイヴは、思わず姉に打ち明けるが……。

監督と脚本を担当したケイシー・レモンズは、女優として「羊たちの沈黙」に出演しています。ジョディ・フォスター演じるクラリスの同僚役でした。

羊たちの沈黙

医師として、地元の名士として尊敬を集める父のルイスを演じるのは、サミュエル・L・ジャクソン。映画のプロデューサーも兼ねています。

ルイスは家族を愛してるし、仕事に誇りも持っているけれど、小さな町でくすぶっている自分にコンプレックスがあるんですね。その解消先は「女」です。

ルイスの妹は「予見者」の能力を持っていて、手に触れると相手の未来を見ることができます。その能力はイヴにも備わっていると言うのですが、まだ自覚なし。森で弟と遊んだり、姉とケンカしたり。イヴはとても素直で腕白な女の子です。

もうひとり、市場で占い師をしている怪しい女も登場。父に絶望したイヴは、彼女に父の「殺し方」を尋ねます。その結果は……ゾワワワ。

プレイヤー2

明るくはつらつとした女の子イヴの愛らしさと、冒頭のセリフとのギャップ。どんどん飛び出す大人の事情。あっという間に引き込まれてしまいました。

ただしこの映画、「邦題なんとかならんのか」案件ですね。

原題は「Eve's Bayou(イヴの末裔)」です。イヴたちは「魔法使い」の末裔として、「予見者」の能力を持って生まれたとのこと。

大人のドロドロとした官能の世界と、無邪気な子どもの世界、超能力という神秘の世界が入り交じって、芥川龍之介の小説「藪の中」のような展開に。

人間の記憶には曖昧なものと鮮明なものがある
記憶は糸のように
複雑な人生の絵模様を織りなす
その絵模様こそが
我々の過去を物語っている

下手したら「安いファンタジー」や「ハンパなホラー」になりそうなところを、グッと引き締めてギリギリの緊張感を保っています。ケイシー・レモンズって脚本力があるなーと思いました。

そのレモンズ監督最新作「ハリエット」は、現在劇場で公開されています。実在の奴隷解放運動家を描いた秀作。主人公のハリエットを演じたシンシア・エリヴォの歌声は必見です。

この映画のコラムを街角のクリエイティブに書きました。こちらもよかったら。


(※画像はIMDbより)

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