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ネオンの灯りでは届かない揺れ動く感情に触れる 『ホスト万葉集』 #611

華やかで、にぎやかで、ウェイウェイで、ちょっと淋しいイメージのホストと、短歌という意外な組み合わせの一冊を紹介します。

『ホスト万葉集』は、歌舞伎町のホストクラブで働くホストたちが詠んだ歌集です。歌会を始めたのは2018年。選者・指導役として俵万智さんや、野口あや子さん、小佐野彈さんを招いて続けてきたそう。

煌めくシャンパンの泡、嘘かホントか分からない本心、熾烈な売上競争と掛け金回収のシビアな世界を垣間見ることができます。

短歌とは、「五・七・五・七・七」の31文字で綴られる詩です。お酒の場ではダラダラと演説するように話すことはない。だからこそ、短い言葉を切れ味良く発する短歌は相性がいいのではないか、と考えて始めたそうです。

太陽が沈んだ後の人の波そういう海で僕は泳ぐの 渚忍
お茶ひきの苦い記憶は残るのに 甘い記憶は呑んで消えてる 愛寿
君はいう「シャンパン入れたい。掛けにする」君のいうこと信じてみよう 蒼葉

ここでいう「掛け」は「ツケ」のことで、もし払えなくなったら、担当のホストが肩代わりすることになんです。だからシャンパンタワーが入るとうれしいけど、もしかして……とソワソワしちゃう。ナンバーワンまであと少しだけど、彼女の事情を知ってるから頼みにくい……などなど、ホストの世界の悲喜こもごもが、かなりせつないです。もちろん、クスッとなるものも。

わたしが通っている合気道の道場は新宿にあるので、朝稽古にいく時はよく歌舞伎町を通り抜けていました。稽古後にカフェでのんびりしていると、「同伴」っぽい二人連れに遭遇することも多かったんですよね。

そこで出会うホストのお兄さんたちは、話し方はぶっきらぼうだし、ぜんぜんやさしくないし、ちょっと怖かったりもしたのですが。

「夜の街」という名前で呼ばれ、ネオンの灯りでは届かない心の奥底に揺れ動く感情が、手触りを持って伝わってきます。短歌はもともと愛を語り合うためのものです。競争の中で抱える葛藤や苦労に、彼らがちょっと愛おしくなりました。

短歌によって、内省し、自分の感情に「ラベル」を付けていく。こういう記録もいいな。

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