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訳ありコンビが熱望するセカンドチャンス 『いつか陽のあたる場所で』 #395

鳥を飼っている人には「平和主義」な人が多いのだそうです。一方で、「自由を求めて束縛を嫌う」性質もあるのだとか。風に乗って空を自由に飛ぶ姿に、自分を重ねてしまうのかもしれません。

会社の近くに、青い大きなオウムのいるお店がありました。何屋さんなのかよく分からないお店の、ショーウィンドウの前、通りからもよく見えるところに大きな鉢植えが置かれていて、オウムはだいたいその枝に止まって外をながめていました。

通りすがりのガラス越しによく見ていたので、何度も目が合ったんですよね。ある日、お店の方が「よかったら触ってみますか?」と中に入れてくれたのです。

見知らぬわたしの腕に乗ろうとするくらい、人慣れしたオウム。キレイなブルーの羽をなでると、意外にハリがありました。もっとフワフワだと思ってたのに。

ペットとして人気のインコとオウム。違いは「冠羽」の有無だそうです。頭の上についているフサフサが「冠羽」。

オウム

(画像はWikipediaより)

先日ご紹介した小川糸さんの小説『リボン』の主人公であるオカメインコも、名前は「インコ」ですが、「オウム」の仲間です。ちょっとシュッとした「冠羽」ですね。

リボン2

(画像はWikipediaより)

セキセイインコの頭はツルンとしてます。

インコ

(画像はWikipediaより)

鳥の話を書きたかったわけではないのに、延々と書いてしまった……。

話を元に戻すと、ペットとしての鳥はかわいくて癒やしをくれる存在ですが、空を自由に飛ぶ姿には憧れてしまう。もし「足かせ」があればなおさらです。

訳ありの、仲良し女性ふたりが、東京の谷中で生きていく姿を描いた『いつか陽のあたる場所で』には、インコと暮らす女性が登場します。

29歳の小森谷芭子、通称はこちゃんと、パン屋さんで修行中の41歳江口綾香。年は離れているけれど、ふたりは大の仲良しで、ほかの誰とも積極的に関わろうとはしません。むしろ警戒して遠ざけてしまうくらい。

それもそのはず。ふたりが出会ったのは刑務所の中だったのです。

若くしてホストに入れ込んだあげく、詐欺を働いたはこちゃん。出所後、おばあちゃんが住んでいた谷中の家にやってきます。趣味で始めたペット用の服が好評で、これを仕事にすることに。

毎日たったひとりで小さな服を作る生活。はこちゃんの癒やしは、インコとの時間と、重罪を犯して服役した綾香とのおしゃべりでした。

家族から勘当されたはこちゃんと、故郷の町には帰れない綾香。

仲良しとはいえ、ふたりの傷をなめ合うわけではないんですよね。彼女たちも「いつか陽のあたる場所」へと不器用ながら懸命に生きている。そんなふたりの姿に、笑いと励ましをもらえる物語です。

『いつか陽のあたる場所で』は第一巻で、『すれ違う背中を』『いちばん長い夜に』と続いていきます。

若い頃は失敗だってあるし、取り返しのつかないことをしでかしてしまうこともある。でも、世の中は「セカンドチャンス」をくれるほど甘くはない。ふたりの転機となるのは東日本大震災です。第3巻の『いちばん長い夜に』で描かれたシーンは、取材中の乃南アサさんが実際に体験したことが基になっているそう。

「足かせ」をはずして飛び立つには、なにより勇気が必要なのだなと感じた物語でした。

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