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中年男の再スタートは痛みと共に 『あの日にドライブ』 #414

「もうあんたには愛想が尽きた」

うちのダンナは、先週で36年の会社員生活を終えました。定年までもう数年あるものの、「早めにリタイアしたい」と退職を決めたのでした。一番大きな理由は、この間の外出自粛要請期間における、トップの無策だったようです。

「仁義なき戦い」の広能のセリフ、「もうあんたには愛想が尽きた」ということですね。

わたしが割と速やかに自宅勤務に移行したのに比べて、ダンナの会社は無為無策。ITリテラシーのある人もいないので、何をどうすればいいのかも分からない。わたしが普段と変わらず仕事をしている様子を見ていて、かなり疑問がわいたようでした。このタイミングで全国の要職者を集めてリアル会議を開こうとするトップの言動に、「このままでは殺される」という思いもあったようです。

もちろん、辞めるまでにもあれこれあったようですが、無事に(?)最終出社をし、しかも通常なら夕方に「引退セレモニー」的なものがあるのですが、それがイヤでこっそり早退してくるという、わけのわからなさ。

還暦を過ぎた、特別なスキルのない男が再就職できるとは思えないけど、辞めてよかったと思うことがひとつあって。

性格が明るくなりました。笑

自ら退職を決めたとしても、不当に思いを残した状態で辞めることになっていたら、つらかったと思います。荻原浩さんの小説『あの日にドライブ』の主人公・牧村は、まさにそんな人物です。

<あらすじ>
元エリート銀行員だった牧村伸郎は、上司へのたった一言でキャリアを閉ざされ、自ら退社した。いまはタクシー運転手。公認会計士試験を受けるまでの腰掛のつもりだったが、乗車業務に疲れて帰ってくる毎日では参考書にも埃がたまるばかり。営業ノルマに追いかけられ、気づけば娘や息子と会話が成立しなくなっている。
ある日、たまたま客を降ろしたのが学生時代に住んでいたアパートの近くだった。あの時違う選択をしていたら…。
過去を辿りなおした牧村が見たものとは?

「前職」となってしまった仕事に未練たらたらの牧村なので、タクシーを運転しながらあり得ない妄想を繰り広げています。

たまたま乗ったお客様が大企業の社長で、牧村の博識に目をとめ転職に成功!

そんなことがあるわけもなく、営業成績が伸びないことに嫌みを言われる日々になってしまうのです。そこでたまたま昔好きだった女性を見かけて、今度は「あの時、あの道を選んでいたら……」という妄想に浸ってしまう。

現実を受け入れられない、おっちゃんの悲哀がつらい。

でも、さすがは元エリート銀行マン。トップの成績を誇る先輩運転手の秘訣に気がつき、徐々にコツを身につけていきます。

中年男性の、人生の再スタートの物語。苦くもさわやかな一冊。

人生って選択の連続だし、自分の選択を後悔することだってけっこうあります。それでも。

選んだ道を自分で正解にしていく。それしかないのだなと感じました。


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