小鳥のさえずりが開く豊かな世界 『ことり』 #394
鳥の鳴き声といえば、パッと思い浮かぶのはウグイスですよね。
「ホーホケキョ」
別名「春告鳥」と言われるくらいの美声で、春の訪れを知らせてくれる鳥。ですが。
ウグイスは鶯色をしてないってご存じでしたか?
(画像はWikipediaより)
緑色がかった茶色やん……。では、春先によく目にする「鶯色」の鳥はなにかというと、「メジロ」だそうです。
(画像はWikipediaより)
上の画像の通り、目の周りに白い縁取りがあることが名前の由来ですが、歌舞伎の隈取りみたいで迫力のある顔ですね。でも「鶯色」をした「メジロ」だっていい声で鳴くんです。メジロを鳴き合わせて美声を競う大会は、江戸時代から開かれていたそうです。
野鳥のわりに警戒心が薄く、口笛で呼び寄せることもできるのだとか。
「ことりの小父さん」もそうして「メジロ」と会話していたのかな。誰にも理解されないけれど、自分の喜び、寂しさ、感謝を語っていたのかもしれない。「ことりの小父さん」は小川洋子さんの小説『ことり』に登場する人物です。
ひとりの男が孤独死したところから物語は始まります。
周囲からは怪しいおじさんと思われていた「ことりの小父さん」の、おだやかでつつましい、やさしくてきよらかな生涯が解き明かされていきます。
人間と会話することができない兄と、兄の話す言葉をポーポー語と呼ぶ弟。弟は、兄の言葉が小鳥のさえずりのように美しいことを知る、世界で唯ひとりの人物です。
世間の常識からは外れ、兄弟だけが「世界」だったふたり。ふたりのもとには多くの小鳥がやって来て、一所懸命歌ってくれました。一見おかしな人の、とてもとても「平凡」な人生の内側は、弾むような音楽でいっぱいだったのです。
この小説を書いたきっかけについて、小川さんはこんな風に語っています。
小鳥っていうのはすごく身近な生き物なんですけれど、実はとっても人間に近い、もしかしたら人間の言葉の起源になるかもしれない「さえずり」を持った生き物だっていう事を知る機会があって、それで小鳥に興味を持って...。
「さえずり」が人間の言葉の起源!?
それでも、「人間の言葉」に変換してしまうとこぼれ落ちてしまう想いもあるのでは。そう思って、「言葉では通じないもの」を小説として書こうとしたのだそう。
世間の評価とか、何かを成し遂げたとか、そういった強気でイケイケな生き方とはまったくの別軸で、ただひたすらに生きる。この世界の片隅で、小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の一生は、とても満ち足りたものだったように思います。
わたしはたぶん「ことりの小父さん」より、多くのものを「所有」しています。特に、本……。
でも、これほど満たされた日々を送っているだろうか。
ずーーっと家にいる生活にももう慣れましたが、変化がないため曜日の感覚がなくなったりすることも。もっと一日一日を「生きよう」と感じた物語でした。
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