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映画へGO!「夏の終わりに願うこと」 ★★★★☆

(※多少のネタバレあります)
がんのステージが進行し、余命もあとわずかの父・トナの誕生パーティーが開かれるある日の出来事。
内省的で少し大人びたトナの娘の少女・ソルの、繊細なココロの動きや表情を鮮明に捉えた、切なくも瑞々しい映画でした。

とはいえ、深刻な状況をただ深刻に描いているわけでなく、ラテンの国メキシコが舞台ということもあってか、登場するファミリー一同の面々や友人たちの言葉や行動はどこかユーモラス。
そのちょっと過剰とも思える言動によって、トナへの想いや近しい者を失う日がハッキリと近づいて来るやるせなさを、逆にエモーショナルに浮き立てているという描き方でした。

自分にとって、特にハイライトと思える忘れられないシーンがあります。
なかなか父と会えずにいたソルが、勇気を出してとうとう自分の意志で父の部屋のドアをノックし、そこでお互いの溢れ出る気持ちを、父・娘それぞれから確かに通わせる場面。
トナは、自分が死んでもソルと対話ができるようにと、恐らくは最期のエネルギーを振り絞って描いたであろう大きな動物の絵を紹介します。なんてかけがえのない、相手を思いやる愛がいっぱいの贈り物だろうか!と胸熱になります。
やがてそこには、ソルの母親も入ってきて、パーティーが続いている同じ時間の中で、家族3人が静かに抱き合える瞬間が生まれたのでした。

その他も、父へのサプライズとして、母娘による二人羽織でオペラを踊る、祝祭感あるシーンも素敵でしたし、人前で話すのが得意ではないという、トナの友人のスピーチもジーンときます。
「あなたとの旅全部が自分の地図になっている。ありがとう。」
これは監督の手腕に違いありませんが、映画の奥行を感じられるディティールがたくさんありました。

そして余韻いっぱいのラストシーン。
ろうそくが立てられたバースデーケーキがトナとソルの前に運ばれてきます。炎がゆらゆらと揺らぐ中で、ソルの顔がアップになり、何かを想い、何かを祈っているに違いありませんが、それが何なのかは観る者に委ねられるのでした。
にぎやかなパーティーの中での出来事ですが、おそらくソルは自分自身の世界にいて、一番身近な存在である父を通じた、言葉にならない生と死の意味の揺らぎを噛み締めているのだろうと思いました。

個人的評価:★★★★☆
メキシコ人の女性映画監督リラ・アビレスの長編2作目だそうです。
面白い設定の着想をベースに、地味に進行しながらも、映画としての起伏が豊かで、とにかく”残る映画”です。
次に何を撮ってくれるのか注目したくなりました!





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