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映画へGO!「TAR/ター」

(※多少のネタバレあります)
昼間この映画を観て、今はもう夜の11時なのですが、まだ心がザワザワしています。
決して後味のよいカタルシスのある映画ではないのですが、ラストの衝撃には半端ないインパクトがあります。

指揮者であるTAR(ター:人名)は、クラシック音楽の世界のトップに上り詰めていて巨大な権力を握っているのですが、女性であり、レズビアンです。
これが”白人男性の女好き”が主人公ということであれば、それが転落していく様を痛快に描くエンタメ映画というのはシンプルに想像できるのですが、この映画はもっと複雑な現代的要素が絡み合っていて、TARは確かに転げ落ちていくのですが、観終わった後にはもっと複雑な余韻が残る所以となっています。

胸糞悪く酷い場面なのにも関わらず、TARが授業の中で学生をやり込めていくところや、リハーサルでオーケストラを従えていく様を、長回しで描いているシーンは、傲慢なケイト・ブランシェットの演技にグッと胸を鷲掴みにされ、逆に惹きつけられてしまうのでした。

かつ、さらにいろいろな出来事がジェットコースターのように、TARの周りでうごめいていき、その度の微妙な心持ち・状態の変化を、TARに乗り移ったケイト・ブランシェットは見事に演じ切ります。怪演とはこのこと!

この作品を観る最大の目的は、頂点にいる瞬間から、谷底に落ちるまでのケイトの演技を目に焼き付けることだと言っても過言ではないでしょう。

そしてラストシーン。。
解釈が大きく分かれるでしょうし、唖然とした方も多いと思うのですが、私の中では・・・辺境の地においても、次なるチャレンジへと向かっていく、TARのしたたかさと滑稽さを同時に切り取ったように感じました。

ただ、この解釈はもう一度鑑賞して確認したいところです。それくらい奥行きやディティールがある映画です。
理屈だけではなく、繊細な映像と音の設計が、ストーリーの流れや主人公の心情と絶妙にシンクロしているのも、この映画の魅力であり、新しい映画体験と言えるくらいのクオリティに達しているのです。

個人的評価:★★★★★
主人公の内面のひだをえぐっていく、映像・音・物語が一体になった新しい映画体験かもしれない!
あと、オーケストラというものがどういうメカニズムで動いているのかを知れるのも貴重でした。

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