フィットネスクラブはDXではなくSXをまず考えるのはどうでしょうか

にーはお。フィットネス業界に入って1年半が経ちました。実務でデジタル化を推進する立場に身をおいて、店舗型サービス業が、デジタル・トランスフォーメーションをするということへの違和感と代替の考え方を綴った備忘録です。今までDXという言葉を使っていたので、過去分は撤回します...


顧客接点をデジタルに移行していくと、知らぬ間にOMO店舗みたいなものになっていくのではないか?という妄想
→「withコロナ時代にフィットネス/サービス業が取るべきDX戦略~「イエナカ接点」を軸にしたCRM最適化~

今まで供給都合で動いてきた業界だったので、まずそこをデジタル化することで、より多くのサービスを異業種と連携して提供できるのでは?という妄想
→「総合型フィットネスクラブDXへの5STEP

店舗型サービス業がDXをするという違和感


デジタル=供給制限の開放と捉えると、店舗ビジネスの時点で「店舗」という大きな制約事項があり、DXはそもそも無理なのではと思います。(ベンダーはDXと煽るのでしょうが)

B2Cサービスで直近急成長しているデジタルプラットフォーマーは、「店舗」という物理的制約を乗り越えたのが特徴的であることを考えても、店舗を持つ時点でDXはできないと思うのです。DXというよりただの新規事業では?

直近のデジタルプラットフォーマー
・メルカリ:中間事業者が売れると判断したものしか店頭になかった
・Netflix:DVDレンタル店では在庫に限りがあった
・Amazon:新品かつ直近出版されたものと人気のある本しか店頭には置いていなかった

DXできないのに、何か流行っているということでデジタルを起点に色々と考えますが、まずは既存の店舗のあり方を見直すが先の論点と感じます。その中でデジタルで付加価値を与えられるならもちとん付加価値を考えようと。

店舗の変革ということで、SX(Store Transformation)とでも名付けます。

SXに成功した事例

を紹介します。

1)顧客接点を店舗からアプリへ

Hemaやluckin coffeeなど中国プレーヤーがやってのけた領域です。購入場所を店舗からアプリに集約することで、店舗の価値をピックアップ/配送の拠点とし、新たな出店/マーケティング戦略を可能にし、中国人の消費習慣を大きく変えました。

日本ではOMO型店舗などと紹介され流行りました。

OMO型店舗の考察についてはこちらの記事「Next・OMO~中国OMOの次に起こる小売革新は何か(前編)~」にまとめていますので、ご参考ください。

中国以外だとドミノ・ピザも実店舗の価値を独自に定義し活用しています。

しかし、ドミノ・ピザはテクノロジーを活用することだけに目を向けているわけではない。皮肉にも、生身の人間がピザを配達することが成長にとって非常に重要である点も、十分に理解している。そうして、テクノロジーに注力するのと同様に検討を重ねてきたのが、好奇心をそそられるアナログな解決策だ。何と、店舗数を増やすというのだ。
大半の企業が実店舗を減らそうと躍起になっているときに、ドミノ・ピザはまったく逆方向へと進もうとしている。しかも、かなり大々的にだ。
2018年にCEOに就任したリッチ・アリソンは、新たに1万店舗を追加すれば、配達にかかる時間を短縮できると確信している。同CEOは、店舗を増やすことで全体的な単位原価(製品ひとつあたりの原価)を削減し、労働者の賃金を上げられると主張している。ほかの利点としては、客の持ち帰り注文が増える点も挙げられる。
2019年10月のCNBC記事「ストーリー」によると、「持ち帰り」は新しいビジネスモデルで、その市場機会はデリバリーの2.5倍だという。目標は、割安価格の限定商品を提供して、客が持ち帰り注文したくなるように働きかけることだ。

出典:「ネットデリバリー興隆に対抗、ドミノ・ピザの意外な策

2)店舗で培った顧客/マーケティング資産を有効活用

丸井(エポスカード)、TSUTAYA(Tポイントカード)

両企業とも、近年の新規事業ではないですが、それぞれ既存の店舗ビジネスの資産を使って変革した事例と言えそうです。

丸井は若者との強い顧客接点、TSUTAYAもDVDレンタルの全国チェーン展開を通じた膨大な顧客基盤と毎日携帯してくれるカードを強みとして、会員ビジネスへと変貌しました。

>ターゲットは若年層です。39歳以下が約60%で、競合他社の真逆になっています。ここが最大の違いです。
>新規会員の70%は丸井の店頭です
>10万円の売り上げに対しどれ位新規会員になったかという、新規会員の獲得率が、小売りを母体とした企業の中では、他社の3倍から4倍
>「最初に作っていただいて生涯使っていただく(Start & Forever)」が最初のコンセプトでした。

出典:ポーター賞 受賞企業インタビュー 株式会社丸井グループ カード事業

> 2002年9月、経営戦略会議で増田は経営陣とこれまでの事業基盤である、リアル店舗事業のTSUTAYAとネット事業ツタヤオンラインの成功要因の分析 をしていた。そこでCCCは、「人と企業が集まるプラットフォーム作り」に成功していることだと気付いた。当時でも購入すると1万~2万円するVHSビデ オテープは高額だったため、レンタル会員になるために住所、氏名、年齢、性別、職業など属性を記入し会員登録を行った。その結果、1000店舗を越えるビ デオチェーンの副産物として全国にいる2000万人のTSUTAYA会員が資産として形成された。単一企業のカード会員で1000万人を超えることは稀で ある。そこで、店舗とネットに次ぐ第3のプラットフォームとして、異業種共通ポイントカード事業「Tポイントカード」が企画された。

出典:Tポイントで世界共通通貨を実現する/CCCのTポイント戦略


フィットネス業界のSXは?

ここで私が所属している店舗型サービス業(さらにフィットネス)に焦点を当てます。

まずフィットネス業界はサービス業の中でも、特にDXを起こしにくい業界と言えます。なぜなら提供しているのがプールや温泉施設、マシーンなど設備だからです。

では、フィットネス業界のSXは何が考えられるか?

1)顧客接点を店舗からアプリへ

A:RIZAP

RIZAPの事業において、スタッフのコーチング力やアプリを使った栄養指導が価値の源泉と言えます。元々店舗事業が合ったわけではないのでTransformationではないですが、現在の日本のフィットネス事業者の中でSX的な事業の例の1つと言えるでしょう。

B:RIZAPの次

まだ日本に強いプレーヤーはいないですが、今後は以下のような形で新規参入がありそうです。

B-1:ネット専業プレーヤーが店舗ビジネスに参入する形で実現。オンラインとオフラインをうまく活用してサービスを提供する業態。

B-2:最初から完全デジタル化(つまり従量課金とアプリによる入会から退会を実現)したプレーヤーの出現(既に1社日本でも生まれていますね)。

2)店舗で培った顧客/マーケティング資産を有効活用

総合型フィットネスクラブの場合、上記のBのような店舗変革は既存店に多額の投資(特にプールと温泉施設)をしているため非現実的です。そこで同じく大型店であった丸井が取った「店舗で培った顧客/マーケティング資産を有効活用」が1つの解になりうるのではないかと考えます。

現在の日本では、何か健康に問題を感じアクションを起こそうと思った時に、フィットネスクラブに通う想起が取れているように思います(要検証)。この資産を活用して、「総合的に健康をサポートする会員ビジネス」などが考えられます。

ポイントビジネス

TSUTAYAは異業種大企業とのアライアンスが中心でしたが、地域の健康に関わる企業を加盟店とし、健康通貨を流通させ、ポイントが貯まると何か健康にまつわる商品と交換できる。会員になることで病院で受診する回数が減ったことを証明した分だけ、自治体からフィットネスクラブに還付金が入る。

情報銀行/PHRビジネス

情報銀行的な立ち位置で、フィットネスクラブにユーザーは健康情報を委託し、そこと提携している病院に行った際には、1回XX円を支払うことでその情報を双方が利用することができる。

など。

「健康=フィットネスクラブ」というポジションを拡張したビジネス。自社施設に来ているかどうかは拘りません。

これを実現しようと思えば、アプリで入退会や決済を簡易に行えるのはもちろんのこと、提携している専門スタジオを予約できるシステム連携、提携している病院との情報の受け渡しなど今までのフィットネスクラブとは全く違うものをデジタル上で提供することになります。冒頭DXは不要と書きましたが、デジタリゼーションは必須です。

ただ、この領域は、ドラッグストアやコンビニも競合になってくるでしょう。以下のように全国で多くの取り組みが行われています。

コンビニ×フィットネス

開発や地主の都合上、コンビニとラーメン店、理髪店、書店、カフェなどが同一の敷地に出店したケースもあるが、コンビニチェーン本部が組織的に複合出店を推進した例は少なかった。そこに、ファミリーマートが開発した「24時間フィットネスジム」と「24時間コインランドリー」との複合出店が始まった。

出典:ファミリーマート×フィットネス「複合店化」でみえたコンビニ併設業種の可能性
※後にフィットネス事業からは撤退

ドラッグストア×フィットネス

自社運営のドラッグストア「ドラッグミック」の登録販売者・栄養士によるサプリメント提案や「アクティブ」の資格を持ったトレーナーによる筋肉運動で、内・外の両面で健康のサポートをいたします。
ポイントサービスも連携しておりドラッグミック会員であればアクティブで運動するたびに1日5回ポイントを付与し、アクティブで運動すればするほどドラッグミックでお得にお買い物が楽しめます。

出典:業界初!ドラッグストアとフィットネスジムがコラボレーション。2月10日(月)寝屋川にドラッグストア「ドラッグミック」とシニア向けフィットネス「アクティブ」がオープン!

自治体×病院×フィットネス

「プール」に象徴される施設に頼らないフィットネス。吉岡氏の水道局で培った経営感覚が生きたのは、必要最小限の投資によって人々の運動を促す仕組みづくりだ。「運動できる場所は、ここなら、町中にある。施設を作るにしても自分の健康をつくるための拠点として機能してくれさえすればよい」。そうした思いから作られたのが「メディカルフィットネス ウェルベース矢巾」。文字通り、ウェルネスの基地になるもので、矢巾町に関わる全ての人に本当の健康を届けるための「健康発信基地」と位置づけられた。

出典:医大敷地に薬局とジム、三者の空間が町を変える

まとめ

この記事もDXというHow起点でしたが、フィットネスという業界も異業種との競争の時代になってきているかつデジタル系の新興プレーヤーが現れているので、今まで施設に来店してもらうことを前提にしたサービス設計だったが、新たな価値提供をすべきではないか?

それはデジタル起点に考えるのではなく、制約条件である「店舗」の存在意義を疑うことを起点に考えるべきでは?

という話でした。

そんなに特異な話ではないですが、店舗型サービス業のDXなんてそもそも定義からしておかしくないかという突っ込みは見かけなかったので(見落としていたら教えてほしいです)、言語化してみました。

コメント等お待ちしております。

参考書籍


『産業プロデュースで未来を創る』

産業を巻き込んだ事業開発のフレームワーク

『健康ビジネス業界がわかる』

フィットネスビジネスもあくまで健康ビジネスの1つだと俯瞰できる


『情報銀行ビジネス参入ガイド』

情報銀行ビジネスの実践的ガイド


『健康をマネジメントする』

健康をマネジメントするという概念で捉える


『2015年のサービス産業』

サービス産業がビジネスでどのような論点があるか


『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』

丸井のビジネスモデル、そのミッション


『未来を実装する』

技術でどのように社会を変えるかの方法論


『リーダーの現場力』

ミスターミニットの事業再生物語。専門店をどう飛躍させるかのエクイティ・ストーリーの実践例として

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