2022年に読んだおすすめ本44冊

2022年に読んだ本の中でのおすすめを、自身が関心を持った時系列で紹介します。ビジネス書っぽいビジネス書はあまり無いですが、実務上での問題や疑問を解決するためにたどり着いた書籍が多いので、実務者に普段の角度とは違った点から参考になる書籍が多いと思います。

生かされている


『なぜか宇宙はちょうどいい: この世界を創った奇跡のパラメータ22』が2022年のハイライト。生命、人間は生かされているのである。

この宇宙が誕生した瞬間、すべての物理法則は、生命にとって都合のいい世界になるよう、誰かが意図したかのように完璧に調整されました。
宇宙は物理法則に支配されていますが、その法則は定数、あるいはパラメータと呼ばれる数値によって表されます。
例えば真空中の光速度c (299、792、458m/s[秒速約30万km])などです。
これらの数値は、実験や観測でしかわからず、理論的に定めることもできない、理由なき値といえるものです。
しかし、これらの値がどれかひとつでも少し変わっただけで、この世界を大きく変えてしまい、生命が誕生することはありません。
同じように、生命誕生には都合がいいが、なぜこの値になったのか説明ができない物理定数や宇宙を規定する値がこの世界にはたくさん存在します。
この問題は、物理学者の間で「宇宙の微調整問題」として知られています。本書は、そんな不思議なパラメータたちに焦点を当て、その法則の役割や、もしその値が大きかったり小さかったりした場合に、世界はどのように変化してしまうのかを豊富なイラストとともに紹介します。

本書 紹介文

全社戦略


入社した会社にて、事業戦略と全社戦略を作りました。全社戦略を事業戦略と分けて会社のトップとして考えるというのは初めての経験で、インプットしなおしました。事業戦略だとやはり「市場」が論点ですが、全社戦略の場合自分の会社をどのように捉えるかが出発点になることから考えるのがアンラーニングであった。

一言で書くと、「どんな会社にもコア事業があり、そのコア事業の中に新しい事業のヒントが隠されているのでそれを見つけよう」。比較的古い本だが、思考のプロセスが整理されている。

どちらも戦略コンサルティングファームが記した本で、学術的にはどのような議論・整理がされているかを確かめようと思い、手に取ったのがこちら。

戦略論を目標軸とプロセス軸とからなるマトリックス上に4分類してその本質的性格を抽出し、どのような条件下でいかなる合目的的戦略を選択するべきか

他にも「欧州」の経営学者が記した「企業(全社)戦略」のテキストを手にとってみようとしたものの、そもそも「企業(全社)戦略」に焦点を当てたテキストは少ないかつ欧州の人の議論は日本ではあまり紹介されていないように思った。その中でで、全社戦略に絞って元BCGのコンサルタントが解説した本書は論点を整理するのに重宝。

本社が考え、実行すべき戦略は、部長、事業部門長の戦略・戦術の延長線上にはないのです。そこで必要なのが「全社戦略」ですが、経営戦略のテキストのほとんどは、事業部の考える「いかに市場を取るか」という事業戦略・競争戦略に関する解説に終始するか、全社と事業部が混在した解説になってしまっています。本社が考え、実行すべき全社戦略について解説した本はほとんどありません。

経営学における存在論と認識論


自社を捉えるためには、経営者の能力にかかっていることから、自分の「認知」の方法をメタ認知したいと思い、「経営者×認知」で探して見つけたのがこちらの修士論文。

元の理論は、「エフェクチュエーション(Effectuation)」。

https://www.kokuyo-furniture.co.jp/solution/mana-biz/2018/02/post-276.php


経営学の研究において、どのように世界を認識しているのかを整理しようと理解しようと手に取った本。経営学の研究の方法論を整理した本であるが、とにかく強調しているのは「マネジメント研究の場合には、存在論・認識論的立場に立脚した研究方法の選択は必須」であること。経営学者の頭の中を覗ける良書。

経営者の能力の解像度をあげようとたどり着いた最新の戦略論。

「ケイパビリティ」でググっていたところ見つけた言葉「ネガティブ・ケイパビリティ」

新しいことを成し遂げた人に共通するもの、それは成果に至るまでの苦しい道のりを乗り越えていることです。
企業経営の場合、経営者の努力と思索は、その人の内側に徐々に時間をかけて熟成され、そしてある日突然、成果に結びつく具体的なアイデアとして結実することがあります。アイデアや着想が湧いて出ることを、通常「発見」と呼び、科学の世界では「科学的発見」と呼んでいます。
その苦しい道筋「ネガティブ・ケイパビリティ」をキーワードとして、通常外側からは見ることが難しい、「成功までの続ける力」や「開発・発見・ひらめき」を経営学者が分析します。

フランス現代思想


そもそも現実をどう認識しているだろうか?という学問的な立ち位置。社会構成主義。

私たちが「現実だ」と思っていることはすべて「社会的に構成されたもの」です。もっとドラマチックに表現するとしたら、そこにいる人たち が、「そうだ」と「合意」して初めて、それは「リアルになる」のです。

「複雑な事象をどう複雑に捉えるのか?」の方法論に興味を持ち、フランス現代思想に行き着く。

分かりやすいと表現してはダメだとは思うが、分かりやすかった。約10年前に東浩紀氏『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』に躓いて以来の挑戦。

時系列でフランス現代思想がどう変遷したかを記述。時代の流れが分かって良き。

他にも、人間に意志なんで存在するのか?(マネジメントの現場において、成長する意志はあるの?みたいなやり取りは多いと思うが、自分は昔から仕事で「成長」したいと思うことがほとんどなく疑問だった)

この辺で最近の哲学や思想の関心事は概ね似たような感じでは?と思い、そんなことを書いている本が無いかと探したらピンポイントであった。この「Xを考えるために、Xではない何かを考える」ことは最近の日本の哲学では多いことみたい。特に自由のために不自由を考えること。

J哲学の二〇一〇年代は「不自由論」の季節であった。ただしその議論は、人間の不自由を強調してばかりの悲観的露悪ではなく、真に自由であるために不自由を無視しないという〈自由のための不自由論〉である。ここ一〇年ほどの日本哲学のクリエイティブなシーンを〈自由のための不自由論〉として理解する──

社会学


「複雑なものを複雑なまま理解する」の延長で社会学についても本を読み進める。


そもそも、もし誰か悪意を持っている人がいて、その人が問題を引き起こしているのなら、これほど解決しやすい問題はありません。実際には、深刻な問題は「意図されていない」うちに発生して進行しますし、その背後には非常に複雑な要因が絡み合っています。そして私たちは、研究者を含めて、この絡み合いについて実はほとんど理解できていない

人間とは、自分たちで作り上げた、なんだかよくわからない環境のなかで生活する存在

ただ、この本では別の見方をします。ありていにいえば、人間社会とはそもそも「わからない」ものだ、ということです。そしてそのわからなさ具合は、どんどん加速している可能性さえあるのです。重要なことは、「社会のことについてはわからないことだらけ」というのは説明の放棄などではなく、社会を理解することの出発点の確認だ、ということです。「突き詰めればすべて説明できるはずだ」という出発点に立つよりは、「わからないことはなくならない」という出発点に立つほうが、よりよい社会認識が期待できる

こちらも社会学の入門書。理論がどう発展したかの経緯を記述することで、社会学を説明しようとするアプローチ。

宮台真司氏が社会システム論を経営者に向けた書いた本。

哲学


「正しい合理化」のために、「合理性の認識」のアップデートをするための

ケア、公正についても多くを考えた。正義論とケアがどう交差するかはこの書籍がうまく整理していた。ケアに関する書籍は多いが、「正義とケア」をテーマに時間軸で整理することで、ケアの倫理が提示する論点を立体的に描き出した良書。

この辺を踏まえて人との話し方を大きく変えようと奮闘中。メタファシリテーションという手法で、途上国支援を通じて体系化されたもの。「事実のみを質問する」という極めてシンプルな方法ながら、難しい。自分に奢りがあったり、自分が知識を伝えたいと思ったり、相手が悪いと思った途端に、「事実を質問する」という当たり前のことができなくなる。


ファシリテートする側が当事者に対して事実のみを質問していくことによって、当事者が思い込みに囚われることなく自分の状態を正確に捉え、そのことによって自分の経験知から課題の解決につながる示唆を主体的に得る過程を創り出す手法である。また、この手法はファシリテートする側が事実のみを訊くことによって自分が現在何を訊いているのか正確に認知すること、すなわちファシリテートする側のメタ認知(meta cognition)を促し、ファシリテーションの過程そのものの客観性とファシリテートする側と当事者とのコミュニケーションの効果を最大限に担保する。

https://muranomirai.org/meta-facilitation/

「社会構成主義」を基盤にした組織論のビジネス書が改めて多いと感じる。過去にベストセラーになったこの本もその文脈。

現象学を通じて職場を理解しようとする試みも。

人事戦略論、日本的雇用システム


会社の人事制度がまだ無いので、策定することにしました。結果疑問の嵐でした。なぜ年齢が上がると賃金があがるのか?ジョブ型ってそんなにいい制度なのか?なぜ定年で退職するのか?等々

まず手に取ったのが経営戦略と人事戦略の理論的交差点を解説したもの。特に「制度」の枠組みで日本の人事戦略の特性を捉えようとし、説得力がある。コンサルタントが「戦略」人事と言って概念を売り込むことは多いが、経営学の議論の延長からくる戦略人事論は実務の世界ではあまり見ないのかなと思うなど。

同著者による日本型人事戦略の変化を実証的に検証したもの。タイトルに「補完」とあるが、社会の変化を捉える上で、「補完」という言葉の強さを感じ取った本。

日本企業での人事変革の方向性を、欧州との実情を踏まながらその方向性を解説した良書。入門書としておすすめ。

日本的雇用システムがどのような歴史的経緯で成立したかを各時代を代表する書籍と著者との往復書簡で解説を試みる野心的な書籍。日本の全経営者・人事担当者必読の本。日本社会論としても読める。

ここから、日本社会の特徴をより歴史的に、多角的に捉えようと書籍・論文を漁る。

日本社会の記述に加えて、アメリカとドイツでどのようにジョブ型が成立したかを丁寧に記載。(おそらく)日本のビジネスパーソンはアメリカの経営者は「合理的に」ジョブ型を選択したと思っているかもしれないが、実情は違う。経営に制約をもたらすために、労働者が勝ち取った権利である。無理な働き方をできないよに、雇用契約に具体的な職務内容の記載を求めるようになったのが実情である。これは自分にとって衝撃的だった。

雇用契約の内容から、メンバーシップ型とジョブ型という要素を抽出し、日本型雇用システムの特徴を論じた名著。「ジョブ型」の誤用を指摘。「ジョブ型」の意味を正しく理解したい人がまず手にとるべき一冊。

なぜ、日本社会では働きづらく、子供を産みにくいのかを多様なデータと国際社会から明らかにしたもの。各国の特徴の捉え方として「工業化の過程はだいたいどこの先進国も同じ。ポスト工業社会となり経済が低迷する中で、各国の取った施策がそれぞれ異なり、それが今の状況を作っている。」今の日本の言論はだいたい「日本オワタ->(ここからすごい飛躍し)(狭義の、立憲主義的思想が無い国の)民主主義オワタ」となっているが、ポスト工業社会の先進国はどこも苦労している。

人材育成や雇用管理の国際比較を行った書籍としてはこちら。日本は「「ジェネラリスト」に偏っているので「スペシャリスト」を育成しよう」の議論がいかに浅はかであるかを痛感。将来経営を担う人は、ジョブ型の欧米であれ、みなジョブローテンションをさせられ、色んな国に派遣され、ジェネラリストとなっていく。では、その中で日本の雇用システムの特徴は何かを明らかにしている。

再帰的保守、リベラル保守


社会学者の北田氏が宮台真司氏に質問をし、実質的な宮台真司論になっていて面白い。

東浩紀氏の『一般意志2.0』を大学1年で読んで以来あまり読めていなかったが論文や書籍を読み直す。

本書で主張されている「再帰的保守」という概念にたどり着く。

ローティの思想はこのように、かりにそれを保守主義と呼ぶとしても、そこでは保守すべきものこそがたえず変化し更新されるべきだと主張されているという、とても複雑な構造を備えている。だから、彼を単純に保守として批判することは適切ではない。
ぼくたちは、そのようなローティの思想を、かりにその保守的な側面に充填を置くならば、むしろ「再帰的保守主義」とでも名付けることができるだろう。そこでは保守すべきものが、けっして静的に与えられておらず、たえず動的かつ再帰的に再構成されるものとして考えられているからだ。

リベラルな「開かれ」にまっすぐ向かうのではなく、保守的な「閉ざされ」を再定義し続けることによってはじめて到達できるような、再帰的で保守的で、同時にリベラルでもある公共性の可能性。

僕たちは自由で民主的な社会に生きている。だから大きな正義を信じることはできない。それゆえ、公と私、開放性と閉鎖性、大きな正義と小さな非正義の対立を脱却し、いままで異なった視点から公共性について考えなければならない。ぼくたちにはもはや、開かれていることだけを正義だと考えるべきではないのだ。

ゲンロン12

そこから「リベラル保守」となり、宮台真司氏が回帰したように、「アジア主義」をもう一度考えみようと手に取る。

歴史に耐えうるのものさしで「リベラル」と「保守」を再認識することが必要で、16世紀ヨーロッパの宗教改革期に遡らなければならない。カトリックとプロテスタントの、価値観をめぐる対立が30年戦争に発展、血で血を洗う戦争の教訓から「リベラル」(寛容と自由)という概念が生まれ、初の国際法=ウェストファリア条約=に結晶した。では、「保守」とは何か。保守とは、政治思想家エドモンド・バークが「保守するために改革せよ!」の言葉とともに提唱した思想潮流に発する。
したがって「リベラル保守」とは、寛容と自由を基盤に置き、かつ「大切なものを抱きしめる」のではなく「大切なものを守るために変わる(※)」政治思想であって、改革への可能性を掲げ、自らも変わることを恐れない立場、政治のマトリクスで図示した第Ⅱ象限なのだ。

https://www.seikatsusha.me/blog/2020/02/07/14699/

もう一度「保守」と「リベラル」を正確に理解しようと手に取る。

日本でなぜ長年「保守」党が政権にあるのか、野党が弱いのかの理解の助けになった。


民主党政権の挫折後、政権へと復帰した自民党の第二次安倍晋三政権(2012~20年)は、経済成長を最優先しつつも、国家の役割を市場に委ねるのではなく、国家が前面に出て人びとを就労へと動員する政策を打ち出した。「アベノミクス」と称される経済政策では、日銀の協力による金融緩和と、「国土強靭化」のための財政政策(公共事業など)に力点が置かれた。そのほか「一億総活躍社会」(2015年)、「全世代型社会保障」(2019年)などのスローガンが次々と打ち出され、女性の就労促進、教育費支援、高齢者の就労促進などが行われた。 安倍自身が「私がやっていることは(国際標準では)かなりリベラルだ」と語っていたとされるように(『朝日新聞』2017年12月26日)、これらの政策は国家による再分配を拡大させるものに見える。ところが国際的な比較で見ると、日本の雇用や福祉への公的支出は最低水準のままにとどまっている。日本の積極的労働市場政策への公的支出(GDP比)は、2012年から17年の間に減少し、2017年の水準(0・15%)はスウェーデン(1・25%)、フランス(0・87%)、ドイツ(0・65%)に遠く及ばず、アメリカ(0・10%)とほぼ同じである(OECDの統計)。初等から高等までの公教育支出(一般政府支出比)も、2010年から16年の間に減少した。2016年の水準(7・8%)はスウェーデン(11・7%)、アメリカ(11・4%)、ドイツ(9・1%)よりはるかに低く、先進国でほぼ最低である(OECD,EducationataGlance2019)。2016年の家族への公的支出(GDP比)も、スウェーデン(3・54%)、フランス(2・96%)、ドイツ(2・28%)に比べて、日本は1・29%と半分程度である(『少子化社会対策白書』2019年)。

田中拓道『リベラルとは何か』17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書) (p.185). 中央公論新社. Kindle 版.

これ以上紹介すると終わらないのでこの辺にするが他にも現代社会を理解する良い書籍と出会えました。


次の1年の好奇心


1)経営者の能力はどのように構成され、どのように鍛えることができるのか?


ダイナミック・ケイパビリティの話は、必然と経営者及びミドルマネージャーがそのような認知能力をどう有するのかという問題に結びつく。ヘルファットとペトラフが「ダイナミック・マネジリアル・ケイパビリティ」と名付けて研究を進めている。うまく自分の能力向上と結びつけたい。

学術的な議論ではないが、BCG日本代表の御立尚資氏の書籍は、経営知識を「使う力」を分解・説明していて面白い視点だった。

2)日本の社会保障制度はどのように進展するか? 福祉国家論の後発性をどのように克服するか?


「働き方」を各国がどのように形成してきたかについてはかなり理解が深まったものの、それが各社会保障制度とどのように結びついているのかはまだ理解が浅く深めたい。特に「福祉国家論」から、日本の後発性、東アジア各国がどうその後発性を克服しようとしているか、そこに新たな連帯を作れるのかはテーマとしたい。これに絡めて「財政社会学」にも射程を広げ、日本社会のビジョンを自身の言葉で語れるようになりたい。

3)歴史からの理論を創造する方法論


過去にモバイルペイメント事業に携わった時に、今の状態にどのような時系列になったかを調べたのだが、中国のような発展の仕方は絶対しないと思っていた。アメリカとも違う。日本独自の発展をすると思っていたが、まあまあ当たっていたと思う。この歴史から理論を作るという方法論を学術の世界から学び、実践で使える方法論に仕上げたい。


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