見出し画像

オールナイト

松田優作が、映画の話を振った時にその作品を観てなかった助監督をボコボコにしたそうです。
「不勉強だから」という理由です。
いつの日か松田優作と共演した時に殴られないよう、出来るだけたくさんの映画を観ておかねばならんと、大学生の僕は決意しました。
松田優作は、僕が高校生の頃にお亡くなりになっていましたが。

TSUTAYAでまとめて借りて観まくったりもしたけど、やはり映画はスクリーンで観たい。
でも、一本1800円は貧乏学生には辛い。
というわけで、一本分の値段で三本観れるオールナイトによく行ってました。
とは言っても、オールナイトで特集する映画って、あまり娯楽大作とかではないんですね。
「安部公房三本立て『砂の女』『他人の顔』『燃えつきた地図』」とかです。
モノクロの不条理劇を、徹夜でビール呑みながら見続けるのは不可能です。
『砂の女』までは「おー、すごいなー……」とか思って観てますが、確実に『他人の顔』の途中で寝ます。
3本目の『燃えつきた地図』に至っては、一切記憶に残っていません。
それでも、「今日は映画を3本観たぞ!」とカウントしてました。

映画を観ながら寝てしまって、目が覚めても映画は続いている。
映画が続いていることに安心して、また眠りに落ちる。
映画に抱かれて眠っているような。
「映画を観に行く」というより、快眠を求めて映画館に行っていたのかも知れません。
映画館を、エアウィーブか何かだと思っていました。

こういう「三本立て」の場合、目玉となる映画は大概一本目に持って来ることが多いようです。
やっぱり、「みんな途中で寝ちゃう」からでしょう。
一本目には、「強烈な」映画が多かったように思います。
前述の『砂の女』しかり、『追悼のざわめき』、『エル・トポ』、『江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間』などなど。
人様に薦めにくい映画ばかりです。
でも僕は、この「オールナイト一本目」の映画が大好きでした。愛していました。

コロナ禍が収まり、また元の世に戻ったら。
また、オールナイトの映画館で眠ろうと思います。




僕が好きなことをできているのは、全て嫁のおかげです。いただいたサポートは、嫁のお菓子代に使わせていただきます。