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格闘技論客としての嫁と、普通の女性としての嫁
「今日こそは、私の愛らしさについて書いてるんやんね?」
いまだに不慣れなパソコンをポチポチやってる僕を覗き込みながら、嫁が聞く。
料理中のため、手には包丁を握っている。
満面の笑みだが、目が笑ってない気もする。
「もちろんだよ‼︎」と答える。
長年武道を嗜んでいるので、危機察知能力には長けているつもりだ。
嫁は機嫌良くアニソン的な歌を歌いながら、キッチンに消えた。
嫁よ、すまない。
今日も君の愛らしさについては書かない。
君のカッコ良さについて、書く。
キッチンから嫁の歌声が聞こえる。
「♪Dang Dang 気になる〜」
これ、なんの歌だっけ?
ボディブローについてのダメ出し
自粛期間中にすっかり体脂肪が増え、腹筋が消失してしまった。
ちょっとカッコ悪いので、腹筋を取り戻すべく腹を叩いてもらった。
自粛期間中にたるんでしまった腹を、鍛え直してもらっています。 pic.twitter.com/zYXMcQGdjC
— 羽島俊洋(空道・大道塾関西宗支部) (@5dbXeTyUZmFzOjL) July 19, 2020
僕は小心者なので、今ビクビクしている。
noteのような場に、こういう映像を載せることが適切なのかどうか。
FacebookやTwitterなら、この映像を見るのは、僕のリアルの友達や格闘技好きな人が多い。
特に問題は無い。
しかし、noteでは今のところリアルの友達もいないし、武道系・格闘技系の方もあまりいなさそうだ。
「脳筋」とか
「野蛮」とか
「こんなことしてなんになるの?」とか
「一体なにを目指してるの?」とか
「格闘技やってる人って、みんな亀田興毅みたいな人なんでしょ?」とか
「いつまでもそんなことやってんと、もっと仕事に本腰入れて、早よ嫁さんもらえ」とか、
そんなことを思われてるんじゃないかと。
すまん。
最後のセリフは、数年前のオトンからのセリフだった。
それはそうとこの映像を見た嫁が醒めた目で一言、
「遠慮のかたまり」
と、ひとつだけ残った唐揚げみたいな言葉を吐き捨てた。
「ジョわ田さん、めっちゃ遠慮して叩いてるやん。
パンチがあんたのお腹の表面しか叩いてへん。
これやったら皮膚が痛いだけやん。
私がいっつも言うてるやろ。
ボディはお腹に穴開けるつもりで叩けって。
拳が体を貫通するぐらいのつもりで叩けって」
ちなみに、「ジョわ田さん」とは僕のお腹を叩いてる人のことで、本名は「澤田さん」という。
Facebookでジョジョ立ちっぽいポーズを決めていたのを見てから、嫁の中では「ジョわ田さん」になった。
「ジョわ田さんに言うたろか⁉︎」
「いや、自分で言う……」
ここにも書いたけど、嫁に格闘技経験は一切ない。
的確な予想
ある日、嫁と2人で深夜のキックボクシング中継を観ていた。
賞金トーナメントの決勝戦で、対照的なキャラの選手同士での試合だった。
ひとりは、真面目でストイックそうな選手。
質の高い練習のために、酒も呑まず、常にカロリー計算に基づいた食事を摂っていて、練習の疲労を取るために毎日8時間寝てそうなイメージ(あくまで僕のイメージ)。
「嫁と、生まれたばかりの子供のためにがんばります‼︎」
そう、煽り映像で爽やかに語っていた。
もうひとりは、一見チャラそうな選手。
練習終わったら、そのまま呑みに行って朝まで遊んでそうなイメージ。
その代わり、朝まで遊んでもそのまま寝ずにランニングに出かけ、朝練などもそのままこなしそうなイメージ(あくまで僕のイメージ)。
「僕自身のために勝ちます」
煽り映像では、あまりハキハキしない喋りで語っていた。
僕は、真面目選手が勝つと予想。
嫁は、チャラ男選手が勝つと予想。
結果は、嫁予想のチャラ男選手のKO勝ち。
嫁曰く、
「戦う前に、『誰々のためにがんばる』とか言ってる人は勝てへんよ。
みんな誰のために格闘技やってるの?
自分のためにやってるんやろ?
自分が勝ちたいからやってるんやろ?」
カッコいい……。
惚れた……。
師匠の目にも涙
こんな男前の嫁だけど、一度だけ試合会場で取り乱したことがある。
僕が失神KO負けした時だ。
医務室で正気を取り戻し、とりあえず客席の嫁の元へ。
僕が無事だったことを確認した嫁は、大泣きした。
嫁を安心させるために、その後の試合は客席で嫁の横に座って見た。
嫁がトイレに立った時、近くに座っていた見知らぬおばさんが話しかけて来た。
「あなた凄い倒れ方してたけど、大丈夫なの?」
「もう大丈夫です(本当は、まだまっすぐ歩けない)」
「あの子はあなたの奥さん?」
「はい、そうです」
「奥さん、取り乱してすごく泣いてたわよ」
「……そうなんですか……」
「こういう所に奥さん連れてくるんなら、奥さん泣かしちゃダメよ」
「……はい。そうですよね……」
トイレから帰って来た嫁は、まだ赤い目のまま、知らないおばさんと話し込んでる僕を、不思議そうに見ていた。
その後の嫁
僕は、このKOされた試合の記憶がほとんど無い。
ただ後でDVDで観てみると、タンカに乗せられるのが嫌で、駄々をこねまくっている。
僕のせいで大会進行が滞ってしまっており、恥ずかしいことこの上ない。
しかもそんなシーン、カットすればいいのに、僕の駄々っ子ぶりの一部始終がDVDに収められているのだった。
DVDで確認したからもういいのに、嫁はご丁寧にその時の様子を再現してくれる。
ハイキックをもらって崩れ落ちる→ピクリとも動かない→タンカに乗せられそうになって目が覚める→タンカを拒否して駄々をこねる→自分で歩いて試合場から降りようとするが、よろめいて倒れそうになり、審判やセコンドが慌てて支える×3回→無理矢理タンカに乗せられ、泣きながら退場する。
これを忠実に再現した後で、ギャハハと笑うまでがワンセット。
すっかり嫁の持ちネタになってしまった。
あの日の健気な涙はなんだったんだ。
「やっぱり女性は強い」という、ありきたりな結論。
僕が好きなことをできているのは、全て嫁のおかげです。いただいたサポートは、嫁のお菓子代に使わせていただきます。