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花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ

僕のnoteでのフォロワーは5人だけだ。
その5人の中にハウス加賀谷さんがいることが、密かな自慢だ。

昔『ボキャブラ天国』という番組に、加賀谷さんら大川興業の方たちも出演していた。
他の芸人とは一線を画するアナーキーさが、カッコ良かった。


大川興業というと、Mのことを思い出す。


そいつ、Mとはあるお芝居のワークショップで知り合った。
この記事のトップ画像で、僕の隣で舌を出して中指を立ててるのがMだ。
※写真掲載については、本人了承済み。

そのワークショップでは、よくエチュードという稽古をした。
エチュードとは即興芝居のことで、簡単なキャラ設定だけ与えられて、あとは即興で話を作りながら演じる。
展開に困ると、僕はパートナーを払い腰で投げたりして、うやむやにした。
ちゃんと受け身を取れるように投げているのに、パートナーは真剣に怒った。
狭量な奴だ。

Mは、展開に困ると全裸になって走り回ったりした。
参加者の8割が女性という状況でだ。

どうしても照れが邪魔をする僕は、振り切れるMがうらやましかった。
単に見せたかっただけかも知れないが。

目立った特徴の無い僕と違って、Mには華があった。
驚くほど不器用だったが、その不器用さが生み出す泥臭さに、何故か目を惹かれた。

Mは大学のサンボ部で、同じ格闘技系ということで僕とは気が合った。
お互い金が無かったので、僕の風呂無し四畳半の部屋で大スポの求人欄を見てバイトを探した。
「ホモAVの男優募集」の広告が載っていた。
なかなかの高給だった。
その頃の僕は、人生で最もそっち方面の方々にモテた時期だった。
女性よりもそっち方面の方々からの需要の方が高いということを、自覚していた。
「する方は無理やけど、される方なら目をつぶって我慢してたら終わるやろ…」
さんざん逡巡する僕をほっといて、Mはさっさと風俗店のバイトを決めた。
僕の方は結局ホモAVに出る決心はつかなくて、いよいよ金が無くなり携帯を止められた。

Mは関西の老舗人気劇団Bに加入した。
プロデュース公演にも抜擢され、演劇に興味が無い人でも知ってるような、あの人やあの人とも共演した。
そのまま順風満帆に行くかと思っていたが。

ある公演で納得行く芝居が出来ないままに本番を迎えたMは、公演何日目かの本番直前に逃亡する。



Mのしたことは許されない行為であり、当然Mも足を洗う覚悟だったが。
僕はその頃自分が所属していた演劇ユニットの次回作に、Mを誘った。
重大な問題を起こしたMを出すことが劇団Bにも伝わり、なかなかに揉めた。
でも僕は、このままMを潰したくなかった。
もう一度Mの芝居が観たかった。

結局やっぱり、その公演はMがかっさらって行った。


「俺、ずっと好きやった大川興業のオーディション受けるわ。あかんかったら、足洗って田舎に帰る」
もちろん、そんなに甘くないことはわかっているが、Mなら受かるような気もしていた。

やっぱり甘くなかった。



「田舎に帰る前に、呑みに行こうや。俺がおごるから」
Mを誘って、十三のションベン横丁で呑んだ。
芝居の話は、ほとんどしなかったと思う。
プロレスの話や映画の話や女の話を、した。
朝方、握手をして別れた。

そのままアパートに帰って、成人式以来のスーツに着替えた。
今日は面接だ。
芝居をやるのに都合のいいバイトではなく、正社員としての仕事を、僕も探し出していた。



あれから20年たった。
Mはまだ大阪に住んでいる。
風俗店の方で正社員になったそうだ。
今でもたまに呑みに行く。
それはいいんだけど、あの夜の俺の感傷と、呑み代を返せ。







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