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「これからあなた方を大阪刑務所に移送します。バスに乗っている間は交談一切禁止です」

出所まで799日(木曜日)

 ついに移送の日!!朝食後、出発までしばらく時間があるので昨日と同じく読書をさせられる。とはいえもう読む本もないので、布団のシーツ類をとったり、返却する官物をまとめたり、部屋の整理をして時間を過ごす。やらなくてもいいんだけど、立つ鳥跡を濁さずの精神は大事だと思う。なんか緊張とワクワクでお腹が痛くなり、トイレに2回くらい行く。途中正担が来て「お前ら向こうでも真面目にがんばれよ」と2,3分くらい激励してくれた。この正担は最初体育会系みたいな圧がすごかったけど、色々気にかけてくれて優しかったし、番号じゃなくて名前で呼んで人として扱ってくれる感じがあって好きだった。しっかり「お世話になりました!!」とお礼を言った。

 朝食から2時間くらい経ってからついに呼び出し。荷物を持って部屋を出る。官物は全て置いていかなければならないのだが、支給品の歯磨き粉「ガードハロー」も回収されてしまった。どうせ大刑でももらえるんだし、捨てるのもったいない気がするのだが…。

 昨日と同じく領置調室に入り、最後の荷物確認。その後、移送されるメンバーが一列に整列させられ、気おつけ礼の号令の後、護送担当の刑務官から「これからあなた方を大阪刑務所に移送します。バスに乗っている間は交談一切禁止です」と告げられる。やっぱり予想通り大刑!!告知が終ったら久しぶりに手錠をはめられる。今回と大刑から移送になるときを合わせてあと2回で手錠されることもなくなると考えると心が晴れる。ただ、手錠をはめてくれた若い刑務官から香水っぽい匂いがして、心の中で「何シャバッ気出してんだよ!」と理不尽なツッコミをしてしまう。懲役はシャバの空気に敏感なのだ。

 手錠したら列になってバスに乗車。荷物はあらかじめオヤジたちが積んでくれていたので、自分で運ぶことはなかった。ついに約半年間過ごした神戸拘置所を出発。振り返ってみれば一瞬だったけど、色々あって本当に濃厚な毎日だったな。バスの旅は交談禁止だけど、シャバの景色を楽しめるので有意義な時間だ。1時間半〜2時間くらいしたら大阪刑務所に到着。荘厳な入口にビックリして思わず隣りに座っている若い子と目を合わせる。神拘とは全然レベルが違う。

 門を通って塀の中に入ってバスが停止すると、医務のおっちゃんが入ってきて鼻に綿棒を突っ込み抗原検査。10分くらい待機していたらOKが出たらしく、新入領置調室に入り、神拘にもあったようなビックリ箱に入れられる。ちょっとしたら外に出て、この大刑での称呼番号を伝えられ、大刑で使うらしい布マスク3枚を受け取り、顔写真を撮られる。またビックリ箱に戻され、今度は書類を数枚書かされる。書き終わった頃に呼び出されて、検尿と身長・体重・視力を計って、医務関係の聞き取り。担当が30後半くらいの色気のあるお姉さんで、しばらくまともな女性を見ていなかった僕は嬉々として会話を楽しむ。

 医務の聞き取りが終わったら、またビックリ箱に戻って昼食。なんだか便所飯やってる気分だな…。メニューは麦シャリ、ゆで卵、ガリ、ヤクルト、そして謎のベビースターみたいな揚げ麺。どうやって食べるんだと思ったら、オヤジが「汁入れるわ」と言って丼ぶり並々のカレーが入ってくる。これはカレーうどん的なや−つ?いきなり麺を入れたら溢れてしまいそうなので、先に半分くらい食べてから麺を入れる。にしても麦シャリも丼ぶり並々に入ってるし、食事の量が神拘の1.5倍くらいなので、完食するのがマジでしんどい。吐きそうになりながらもなんとか完食。

 食事が終わったら丁度オヤジたちの休憩の時間だったらしく、30分ちょい放置される。オヤジ達が戻ってきたら今度は荷物の検査。荷物置き場にある自分のダンボールを持って窓口に行く。担当は恰幅のいい陽気なオヤジ。私服から官服に着替えさせられつつ、荷物を確認してもらう。僕がゴールデンカムイのコミックを持っているのでその話で盛り上がったり、オヤジが以前関東に住んでいたらしく、東京の話で盛り上がったり、とにかくワイワイとおしゃべりできて緊張がほぐれる。大刑のオヤジはかなり厳しいと聞いていたので、かなり拍子抜けだ。

 荷物の検査では、神拘では使えたけど、残念ながら大刑では使えないもの、一時的に領置になるものがあった。今回はそれを箇条書きで記しておく。

  • メリヤス … 記事が2重になっているものは、中にものを隠せるということでNG

  • パンツ … ナイロンなどの科学繊維のものは大刑の乾燥機の関係?でNG

  • 靴下 … くるぶし丈以下のもの、柄入り(ワンポイントでも)のものはNG

  • ロンT … NG。メリヤスみたいなものなら入るかも。

  • 石鹸箱 … 2つ種類が違うものを持っていたのだが、アクリル製で透明のものが「割れやすくて危ない材料だから」と謎の理由で入らず。もう1つの方はOKらしいのだが、間に入っている穴の空いた水切り部分のパーツのみNGで、そのパーツのみ領置になった。(後日、2つ目も結局NGになった。)正直判断基準がよく分からない。

  • メガネ・コンタクト … 僕はメイン・スペアのメガネを1本ずつ、1dayコンタクト左右1箱ずつを持っていたのだが、大刑はどれか1つしか入らないらしく、とりあえずメインだけを持ち込んであとは領置に。後で願書書いたら入れ替え可能らしい。

  • マスク … 大刑では私物マスクはNGらしい。

  • ノート … 部屋に持ち込めるのは2冊まで、オーバーした分は入所時のみ領置してくれるが、特別な理由がない限り、即時宅下げしなきゃ廃棄になるらしい。

 とまあ大体こんな感じだった気がする。大刑がルールが厳しすぎるだけで、他の刑務所では使えることも多いらしいので、とりあえず領置でとっておくことにした。

 領置調べが終わったら、即日持っていける荷物を所内でロッカー代わりに使うキャリーバッグに入れて、その他小物を入れた紙袋も持って、ついに居室棟へ。時計を見たら3時過ぎだったので、この新入調室に4時間くらいいた計算になるのか。みんなで列になって、足が悪いおじいもいたのでゆっくり屋外(もちろん塀の中)を歩く。

 全体像はつかめないが、大刑はめちゃくちゃデカそうだ。雰囲気は工場みたいな感じ。5分ほど歩いて居室棟に入り、これから生活するフロアに入る。神拘は移送当初2週間はコロナ対策で独居だったが、大刑はいきなり雑居らしい。ただ表札をチラッと見た感じ、累犯と初犯は分けているようだ。フロアの中央で整列し、それぞれの部屋番号を告げられる。僕は神拘の移送部屋で一緒だった若い子と同じ部屋みたいでひと安心。こういう新しい環境では知っている人が いる・いない でだいぶ気の持ちようが違う。

 部屋には1人先客がいたので丁重に挨拶しながら入室。聞くと彼もまだ来て2,3日らしい。そして分類センターの訓練はまだ始まっていないらしい。訓練止まっているのか…?荷物を片付けたり、官服一式に名前を書いたりと大忙し。大刑は官服一式が基本個人貸与のようだ。そして私服に関しては名札みたいなやつを洋裁工場につけてもらうまでは使用禁止らしい。あとなぜか、他の人は紙袋に石鹸箱を入れてもらっていたのだが、僕のには入っていない。あれ、領置調べのオヤジは片方は入るって言ってたのに。このフロアのオヤジに言ったら「とりあえず待っとけ」としか言わず、石鹸をしばらく裸で使うことに。ちょっと不便だな…。

 その後、持ち込んだノートに使用許可証を貼るためにオヤジにノートを回収されたのだが、オヤジが別の人と名前を間違えた許可証を貼ってきたので「名前間違えてます」と提出。舌打ちしながら「お前名前なんや」と威圧的に言ってきたのでちょっとイラッとくる。初っ端からずっと態度が悪かったのだが、間違えたの自分なのに謝りもせず逆ギレって? たしかに僕らは犯罪者でクズかもしれないけど、僕も含めて真面目に更生しようと頑張っている人もいるんだし、こちらがルールを守って生活している限り、真摯な対応をするべきなんじゃないだろうか。めちゃくちゃ文句を言いたかったけど、担当抗弁になるのでぐっと我慢強い。懲役生活ではこういう理不尽な経験をたくさんして、出所時には鋼のメンタルになっているんだろうか。

 荷物が片付いたタイミングで丁度よく作業終了の時間らしく、配茶があってから点検。大刑の平日は夕食が17時で、点検の方が先らしい。夕食は麦シャリ、豚と大根の煮物、チャプチェ、おくらわさび和え。昼食ほど量は多くなかったが、味はかなりおいしい!!神拘がどれだけレベル低かったかがよく分かる。

 夜は皆で雑談しつつ、明日提出する書類を書く。親族登録や身柄引受人などについてのやつなのだが、神拘で書いたのと全く同じ。施設同士で連携すりゃいいのに。PDF化してデータで管理すれば全国の刑事施設で共有できて 紙・人的なコストを削減できるのに。結構各項目多くて、同じことを書かされるの本当にダルい。同じ紙を3枚そっくり書かされたりとかもあって、なんだかなぁと思った。あ、そうそう、大刑の分類前の部屋はテレビと回覧新聞がなく、ラジオ放送のみ。21時の2,3分前の神拘と同じタイミングでラジオ放送が終了し、ウクレレのちょっとエモい音楽が流れて消灯。今日は色々あったので疲れた。めちゃくちゃ寝れそうだ。

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note代理入力者考えを追記
刑事施設同士で個人情報データをデジタル化管理は、情報漏洩、ハッキングの危険性が高まり、コスト削減ができそうにみえて、セキュリティ面で莫大な費用が重なる。刑事施設内の情報は、反社会組織の欲しい商材となりうる為、特に刑事施設で生活する囚人の人権と、刑務官が重責を負うことを考えると、情報漏洩対策から考えても便利だからと安易に考えてはいけない。
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