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スイカと決意

同居する認知症の義母の好物はスイカだ。
私はそれを知っている。

義母はもう、自分で食べることができないため、介助して、スイカを一切れずつ食べさせるよりは、ミキサーでガーッと潰して、コップで飲ませるほうが、たくさん早く摂れる。
なにより、スイカは水分補給にも最強だ。

今日の夕食後のデザートもスイカジュースにした。
ちょっと口をつけて、「美味しい」と義母は言い、半分までゴクゴク飲んだ。
「美味しいやろ?まだ半分あるで。全部飲んでや。」と私が言うと、
少しぼんやりした表情の義母が、
「むっちゃん、ずっと、あんたにこうしてもらえたらええんやけど…、あと、半分やろ?」と言った。

「あと半分」は私の言った言葉に釣られているような気もするし、間違っているかもしれないが、義母は、介護されていることがわかっていて、好物を出された心地良さから、これからも私の介護を受けたいという思いと、私に負担をかけてしまうのではないか、という気兼ねが半分半分入り交じっている気持ちを言いたかったのではないだろうか。

私はそう思って、
「おかあさん、私はおかあさんとずっと一緒におるで。旅行もまた一緒に行こうな。」と言った。
「うん。」と声に出して義母は頷いた。
「お買い物も一緒に行こうな、コンサートにも一緒に行こうな。」
「うん。」
義母の目が少し赤くなった。
私も胸がジーンとなった。
でもお互い、涙をこぼすまではいかなかった。
5分経てば、言ったこと、聞いたことを義母は忘れてしまう。

例えばオムツを交換されるとか、起きる気がないのに座らされたり、ここがどこかわからない時、何を言われてるか理解できない時など、義母にとって心地が悪いときは、
「あんたはアホや!何にもわかってないやないの!アホ!バカ!」と言う。
在宅介護を始めたときは、腹も立ったが、今では感情が言葉で表現できていることに安堵している。

そのうち私の名前も呼ばれなくなり、怒られることもなくなるのだろう。
たとえそんな日がきても、私は忘れないでおこう。
おかあさんがおかあさんであることを、私はずっと覚えておこう。

義母の好物はスイカだ。
私はそれを知っている。

今はそれが、義母の傍にいる私のプライド。


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