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ぐうの音も出ない

認知症の義母は、椅子に座る動作が苦手だ。

以前にリハビリを受けたが、一人で座れるようにはならなかった。

おそらく、イスの上に立って戸棚に物を入れようとしたとき、ひっくり返って後頭部を強打したので、後ろ側が怖いからだろう、と思っていた。
ただ、ひっくり返った時の記憶が義母にないので、不思議ではあった。

いつも、手すりをつかんで立ち上がってもらい、後ろから支えて着衣の介助をし、椅子に身体を引き寄せて座らせている。

先日は、疲れてバランスが取りにくかったのか、手すりから手を離し、床に向かって前へ倒れそうになった。
このままでは私も一緒に前へ転けてしまう。
「アカンって!後ろへ体重かけて!転けるで!もう!なんで前へ行くの!?」
思わず声を荒げて、強めに後ろへ引っ張った。

すると、その2倍の大声で義母が言い放った。

「だって、前しか見えへんやん!!」


目に見えないものを頭の中で想像できない
☑️服をしまった場所がわからない
いつもの場所にしまっても、戸が閉まっていて見えないと、どこにどの服があるのかわからない。見つかるまであらゆる戸を開け閉めして探すことになる。

認知症世界の歩き方
著書 筧裕介 
ライツ社      より


例文とは内容が違うが、「目に見えないものを頭の中で想像できない」のだ。
いくら座る直前に振り返って椅子を見たり、手で触って確認したとしても、座る時にそれは見えない。

2年半前からずっと、座れなかった理由が、あまりにもシンプルなものだったことに驚いた。
何も言い返せなかった。





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