ピンク
一年半前、約半年の入院生活を経て帰ってきた義母の髪は真っ白になっていた。
以前はこまめに黒く染髪してパーマもあてていたが、義母にすれば浦島太郎状態で、洗面所の鏡に映る度に驚き、「髪を染める」と言った。
ただ、認知症が進み、歩くことも、身の回りのこともできなくなっていたので、自分で染められるわけではない。
「染めなくていいよ。白髪、きれいやで。」
と言っても、
「そこの棚に染める液があるやろ?取って。」
昔の自宅と勘違いしているのか、入っていない棚を見せても納得しない。
「取ってくれたらええやんか、あんたは私の言うことをちっとも聞いてくれへん!」と怒り出す。
髪を染めるとしたら、シャワー用の椅子に移動させてから、服も脱がせて上から掛けておいて、ヘアカラーを塗って、待って、風呂場でシャワーするー。って、ムリムリムリ~~。
だって、染めてることを途中で忘れて、触っちゃう、気持ち悪いと言う、シャワーはしないと言うに決まっているのだ。
まだ怒っている義母に聞いてみた。
「でもー、やっぱりー、急に真っ黒にするのは変やで。何色にしたいの?」
「ピンク!!」
なんでやねん。
なんでピンクやねん。
ヘアカラーの行程を頭の中でシュミレーションしてみたことすら、アホらしくなった。
どうせ、染めたこともすぐに忘れてしまうだろうに、一度染めたら1~2ヶ月毎に繰り返さなければならなくなる。
絶対に染めてあげるもんか!!
それから毎日、「白髪はきれいやわー」「きれいな白髪はうらやましいー」「今、白髪は流行りなんやでー」と褒めて崇めた。
そのうち、義母もだんだんと見慣れてきたのか、染めたいと言わなくなっていった。
…ということがあったなーと、最近思い出した。
着替えを介助するときは、以前来ていたものより、2サイズほど大きい服のほうが着せやすい。
なので、冬のジャンバーも春のカーディガンも買い換えた。
UNIQLOへ連れて行き、選んでもらった色は、両方ともピンクだった。
義母のタンスの中にピンク色のセーターが3枚あるのも見つけて、義母はピンクが好きだったのか、とわかった。
病気以前は、だいだい紺色や水色の服を来ていたような記憶があったので、私は意外だった。
そのことを義母が通う、認知症対応デイサービスの介護士さんにお話すると、「そういう方、結構いらっしゃいますよ。ショッキングピンクを着て来られる方も。」と仰っていた。
そうか、一般的には、『好きな色』と『着たい服の色』は違うのだ。
それは、自分に似合うか、年齢に相応しているか、流行に合っているか、など、諸々の考えが影響するのだろう。
その、様々な事項を考えなければ、『好きな色』=『着たい服の色』になる。
一年半前、「白髪をピンクに染めたい」と言った時から、義母は全身が真っピンクで良かったわけだ。そういうことだったのか。
白髪にピンク色の服は、とってもよく似合う。顔色も明るく見える。
ピンク色が好きな女子はきっと多い。
けれど、前開きで着せやすい、介護用の服、特に冬服はピンク色が全く無い。
あれば売れると思うよ。
そうだ、要望書を書こう。
ピンク好きな誰かさんのために。
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