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安全保障の書評と評論

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#ローマ人の物語

書評:『ローマ人の物語』(塩野七生)全巻



塩野七生さんの『ローマ人の物語』を全巻kindle版で読んだ。本当に読んで良かったと思うし、面白かった。

この本は、ローマ帝国の成り立ちから、西ローマ帝国の滅亡までを一貫して描写した本である。ローマ皇帝というリーダーが何をしてきて、ローマ帝国という組織がどう運営されてきたのかが、よく分かる。

その中で、勉強になるのが、リーダーの在り方である。成功した有名な皇帝のやり方や組織運営の仕組みも大

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書評:『ローマ世界の終焉──ローマ人の物語[電子版]XV』(塩野 七生)



ローマ帝国を滅ぼしたのはローマ人とローマ皇帝自身であったと思う(ちなみに、この本が描くローマ帝国は、分裂後の西ローマ帝国であり、東ローマ帝国はしばらく生き続けるが、ローマ帝国的ではない)。

まずは、最後のローマ人と言われた蛮族の父を持つ将軍スティリコ。繰り返す内戦で弱体化したローマ帝国において、軍を組織して、蛮族を叩き続ける。蛮族と戦えば勝てるのであるが、蛮族が領土に入ってくる前に叩くのでは

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書評:『キリストの勝利──ローマ人の物語[電子版]XIV』(塩野 七生)



今のイスタンブールに首都を移し、キリスト教の国に衣替えした皇帝コンスタンティヌス。その次は、3兄弟と2叔父の分散統治から始まるはずであったのだが、実際におきたのは兄弟喧嘩でしかなかった。

生き残ったのは、次男の皇帝コンスタンティウス。まずは叔父を殺し、兄弟を殺しとやっていて、いざ唯一の皇帝になってみたものの、この時代は、蛮族が略奪を繰り返しているので、一人では広大なローマ帝国を統治することが

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書評:『迷走する帝国──ローマ人の物語[電子版]XII』(塩野 七生)



さて、いよいよ傾くローマ帝国である。

終わりを直接的に作ったのは、カラカラ帝であろう。

カラカラさん、理想主義者で、今まで属州民とローマ市民に分かれていたのを属州民を含めて、全員ローマ市民にしてしまった。みんな平等。人権という面ではなんと素晴らしい!だけど、うまくいかない。

まず、税制。属州民には10%の直接税をかけていた。ローマ市民は直接税がない代わりに兵役などを課していた。全員ローマ

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書評:『終わりの始まり──ローマ人の物語[電子版]XI』(塩野 七生)



終わりの始まりは、哲人皇帝マルクス・アウレリス。賢帝の最後と言われている人だけれども、実は、ローマ帝国の終わりを作った人の一人として描かれている。

もっというと、その前の平和おじさん、皇帝アントニウス・ピウスが、平和な世の中を続けたことが、ローマ帝国の人材、特に軍人面の人材育成に悪影響を与え、ローマ帝国衰退の原因を作ったという仮説が興味深い(逆に、ローマ帝国自体、ハンニバルにイタリアを蹂躙さ

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書評:『すべての道はローマに通ず──ローマ人の物語[電子版]X』(塩野 七生)



ローマ帝国とはすなわち、ローマ文明である。その根幹をなすものは、インフラであろう。インフラすなわち、街道、水道、医療、教育である。

その目的はというと、安全保障、すなわち、平和である。

ローマ人の物語を私は、電子版で読み、kindle端末で読んでいる。しかし、この巻に限っては、iPadでカラーで読んだ。写真が多いからだ。

イタリアに旅行に行ったことがある。一度ではなく、三度ぐらい。面白か

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書評:『賢帝の世紀──ローマ人の物語[電子版]IX』(塩野 七生)



前巻とはうって変わり、賢帝シリーズである。

皇帝と言うと世襲のイメージがあるが、この時代のローマ皇帝に血の繋がりは薄い。一応、血縁ってことになっているけど、養子縁組で次の皇帝を外から取ってきている例も多く、実子が継いでいる例は少ない。世襲というよりは、日本企業の社長が勝手に公認を決めて、禅譲するのに似ている。但し、任期は死ぬまで。伝統的な日本の大企業における社長システムは、ローマ皇帝的なのか

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