書評:『ローマ人の物語』(塩野七生)全巻

塩野七生さんの『ローマ人の物語』を全巻kindle版で読んだ。本当に読んで良かったと思うし、面白かった。

この本は、ローマ帝国の成り立ちから、西ローマ帝国の滅亡までを一貫して描写した本である。ローマ皇帝というリーダーが何をしてきて、ローマ帝国という組織がどう運営されてきたのかが、よく分かる。

その中で、勉強になるのが、リーダーの在り方である。成功した有名な皇帝のやり方や組織運営の仕組みも大変に参考になるのだが、それと対比されることになるダメな皇帝たち、中くらいの皇帝たちの行動と結果が非常にためになる。よく、企業経営において「失敗のデータベースがない」と言われるが、リーダーシップの失敗のデータベースになりうるのが、このローマ人の物語であると思う。

読む前は、「塩野七生さんがすごい歴史家で、この本はすごい本」と勘違いしていたので、構えて読み始めた。読んでみたあとでは、「誤解を恐れず言えば、この本は司馬遼太郎」である。本の中身には、塩野さんの仮説や推測も結構な量が含まれている(半分ぐらいは想像だがと断って書いている)し、そもそも、2000年前ぐらいの歴史は、記述が正しいのか確かめようがないので、推測するしかないところもある。物語として話が流れるように、塩野さんが補足しているので、読みやすい。

そして、重複が多い。無駄に長くて辟易する。塩野さんの文章構成能力はお世辞にも高いとは言えない(少なくとも私の好きな安部公房とか、川端康成とかの能力はない)。多分、すごい作家が書けば、本の厚さは半分ぐらいだろう(誰か、文章を直した抜粋版を作って欲しい)。

重複が出てくる度に、私は「連載きつかったのかな」と思った。調べてみたら、その通り。1年に1冊だすスケジュールで15年連載されたそうだ。新聞連載が多かった夏目漱石や現代の人気漫画作家的である。最初から巻数が決まっていたので、重複で文字数を稼がねばならなかったのという事情があったのだと思う。

重複が多いという欠点を補ってなお、この本が抜群に面白いのは、ローマ帝国の皇帝たちの営みが面白いことと、バラバラの文献にある皇帝たちの話を、塩野基準で標準化し、繋いで、話が進むので、読みやすいからである。ローマ帝国の歴史という長距離走を読者が走りきれるのは、数々の文献を読んだ塩野さんのローマ帝国のおしゃべりが面白いからである(重複が多いという意味でも、おばあちゃんのおしゃべりの面白さである)。

個人的に勉強になったのは、リーダーは人気を取れないとダメだという基本的な話と、その人気の取り方、ダメな人の人気の失い方である。例えば、良いローマ皇帝は人気取りのために、度々、ローマ市民にボーナスを支給している。そういうベタな施策を実行してこそ、良い皇帝である。理屈じゃなくて、大衆の心理だよなとつくづく思う(この手の話は、各巻の書評にグダグダ書いたので、そちらを読んでいただければ幸甚です)。

などなど、読む人の状況によって、学ぶことは色々あると思う。色々を学ぶ教材として、ローマ帝国の歴史というのは面白い。要するに、この本は、教養の格好の材料であると思う。(本を読み慣れていないから、この本でも読みにくいという人向けに、誰かキングダムみたいにこの本を漫画化してくれると、なお良いのだけれども)。

「歴代のローマ皇帝で誰が好きか?」という高尚なテーマで語り合うというようなことが、同じローマ人の物語を読んだ人どうして話したら面白いんだろうなと思う。

ということで、私は、読んで良かったと思うし、面白かったし、人生のためになると思うので、是非みなさんも一番上の画像をポチッと押して、私にamazonアフィリエイトの収入を発生させるべきだと思うという、人気の取れない自己中心的なコメントを残して、ローマ人の物語の書評を閉じようと思う。

書評を読んでくれたみなさま、塩野七生さん、ありがとうございました。

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