元教授、趣味の落語のはなしを少し(その3、柳家喬太郎さん)定年退職55日目
柳家喬太郎さんをご存知でしょうか? もちろん落語界では人気のスーパースターですが、前出の枝雀さんや小三治さんに比べると、一般の方にはあまり知られていないかもしれません。映画の主演をしたり、テレビでもCMやナレーションなどでお見かけしますが(noteにも登場、著書も(タイトル写真))・・・個人的には、今一番のファンなので、「もっと有名になっても欲しいのですが、あまり有名になりすぎない今のままが嬉しい」というのが本音です。
さて、私が初めて喬太郎さんの噺を聴いたのは「孫、帰る」という新作落語(作:山崎雛子)でした。期待せずに聴き始めたのですが、心を掴まれ、不覚にも涙が止まらなくなりました。それ以来彼のCDを買い漁り、ほとんどの作品を聴かせていただきました。楽しい新作落語も多いのですが、古典もご自身の解釈で様々な脚色がなされ、他の方と全く違う噺に聴こえます。
そしてついに、ご本人の高座を聴く機会がやってきました。大阪の100人ほどの会場で、柳亭市馬さん(現、落語協会会長)との二人会でした。市馬さんもそうですが、まずお声が素晴らしいのです。狭めの会場でしたので、目の前で生の声が聞けて最高の贅沢でした。そして、喬太郎さんはマクラも最高に面白いのです。「コロッケそば」のマクラが有名ですが、高座を縦横無尽に暴れ回ります。客は噺が始まる前に笑い転げて、疲れてしまうほどです。
そしてある時、ふとマクラを聴いていると、どうも「孫、帰る」の振りのようです。あの最初に聴いた噺です。もう始まる前から涙が流れて止まりません。丁度インフルエンザが流行っていた時で私はマスクをしていましたが、真ん中の席でマクラですでに泣いている私を、師匠は不審に思われたかも知れませんが、そんな理由です。
喬太郎さんは、市馬さん以外の方とも良く二人会を開催しておられました。「二人会」は、二人の違いがわかって面白いのかと思っていたところ、趣旨はどうもそうではないようです。二人がぶつかったり、共鳴して、お互いの新しい味がどんどん引き出されてくるようです(私の解釈ですが)。一番強く感じたのが、桃月庵白酒(はくしゅ)さんとの会でした(注1)。もちろん、前から白酒さんの噺も知っていたのですが、喬太郎さんの後に出てきた白酒さんの「松曳き」は聴いたことが無いほど絶品でした。すると、喬太郎さんもそれに呼応して素晴らしい噺「文七文結」をされ、これが醍醐味だと感激したことを覚えています。
ここ数年は新型コロナ禍の影響で、(本当に悔しいですが)狭い寄席での高座が制限されていましたので、そろそろ、久しぶりにキョンキョン(喬太郎さんのニックネームです)の声を聴きに行きたいと思っています。出囃子の「まかしょ」を聴いただけで、胸が熱くなると思います。私のお気に入りは、前出以外では「一日署長」、「夜の慣用句」、「反対俥」、「仏壇叩き」などです。ちなみに私の奥様も大ファンで、噺と共に、時折見せる「キョンキョンの悪い顔」が大好きなんだそうです。
もう少し落語のはなしを続けたいと思います。怒ってませんか?(注2) ご期待ください!
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注1:後でネットで調べてみますと、この時は二人会では無く、正式には師匠の独演会でしたが、二人が共鳴し合って素晴らしい会でした。
注2:喬太郎師匠が高座でよく言われる一言です
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