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水溶き片栗粉やマヨネーズの不思議:レオロジーの世界(元教授、新技術に驚く。 その2) 定年退職68日目

大学生になってしばらく経った頃、ある授業で教授が「ガラスは固体ですか、液体ですか」と突然問いかけてきました。「そんなの当たり前じゃないか、何を言い出すんだ」と内心思いましたが、その道の権威の教授の話なので黙って聞いていると、「実は液体なんだ」とのこと。驚きましたが、これが「レオロジー」という学問を知ったきっかけでした。ガラスも何十年も経つと徐々に流動する液体であり、普通の液体とは流れる時間スケールが違うだけだということでした。


「レオロジー」は、小、中、高等学校では習いませんし、その専門でない限りあまり馴染みがないかもしれませんが、物質の変形と流動を扱う古くからある学問です。一方、前回紹介した水溶き片栗粉のデモ実験のように日常生活に密接するなじみやすい科学でもあります。この機会に、是非お見知りおきを。

「レオロジー」に関する入門書(参考文献)


ちなみに、レオロジーに関連する話題としては、人の感覚を科学的に表現しようとする(たとえば、パン作りの生地の練り具合で、生地の硬さとしてちょうど良い「耳たぶの固さ」をどう科学的に表現するかなど)、「サイコレオロジー」という学問もあります(サイコロジー(心理学)とレオロジーを合わせた造語)。またそのサイコレオロジーを駆使して、口溶けの良いプリンを作る試みもありました(実際にコンビニで買って食べたことがあります)。


さて、本題に戻りますが、前回に引き続いて標題の件です。水溶き片栗粉が弱い力では流動し、強い力には固体のように硬くなるダイラタンシーの話を紹介しましたが、逆の挙動(動き)をするものが身の回り、特に台所に沢山あります。たとえば、マヨネーズやケチャップなどは容器の中では高粘度で固まっていますが、塗る時にはきれいに広げることができます。それでいて厚く塗ってもそのままで、たれたり流れたりしません。それが「チキソトロピー」という挙動です。お酢やドレッシングと比較すると、違うことがわかります。

ポン酢とマヨネーズ


身の回りでみると、最近テレビのコマーシャルなどでも「簡単に塗れるが、塗った後は垂れない」ペンキや薬剤がよく紹介されています。これらもチキソトロピーの性質を利用しています。少しだけ科学的に説明すると、これらは一般には原料が長い鎖の分子(高分子)で出来ていますが、普段はそれら同士が弱い力(相互作用)で結びついて粘くなっています。しかし、大きな力が加わるとその結びつきが切れて液体のように流れるようになります。そして再び力がかからなくなると、元の状態に戻って粘くなるのです。面白いですね!


<追記>

私は大学で、化学の研究をライフワークとして行ってきました。物理や数学があまり得意でなかったので化学を選んだという過去があるのですが、このレオロジーのお陰でこの物理系の分野が大好きになりました。その結果、研究人生の後半ではこの分野も少し勉強することになりました。どうなるかわからないものですね。

最初の頃勉強した「レオロジー」の専門書


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参考文献:キッチンで体験レオロジー、尾崎邦宏(裳華房)

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