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未来を創る極小技術: 極細管と多孔質体の新境地 (元教授、定年退職181日目)

前回は金属に究極の「細い穴」をあける技術についてお話ししましたが、今回も金属加工に関する話題の中から、極めて「細い管」と「小さな隙間」を作る技術について紹介いたします。情報源は前回に引き続き、大阪産業創造館で配付されていた「ビープラッツ・プレス 239号」の特集号「小さすぎてスゴイ技術:あなたの知らない極小技術の世界へ」です。


「細く」「薄く」を極めた極細管

まず目を引いたのは、タイトル写真(注1)の「指」ではなく、その上に乗った小さな金属製品です(お気づきでしょうか?)。よく見ると中に穴が開いた管で、外径 0.60 mm、内径 0.55 mm というものでした。さらに小さなものでは外径 0.05 mm、内径 0.03 mm となり、肉眼では見えないサイズです。

この驚異的な細さの管は、(株)日本特殊管製作所によって製造された「半導体向けのコンタクトプローブ用精密管」で、通電検査の際に内部にバネなどの微細部品を組み込むことができます(世界シェア:60%)。同社は細管の製造やそれのカット技術に特化しており、中核となる技術は「芯引抽伸(プラグドロー)」です。下図に示すように、パイプ内部にプラグ(芯)を詰め、円すい状に細くなるダイスに通すことで、引き抜きながら細くしていく技術です(<追記>参照)。

芯引抽伸(プラグドロー)の概念図(注2)

<追記> この技術のきっかけは、注射針の開発をしていた際に、ステンレスの細く長い管を連続的に抽伸する方法を確立したことです。これにより注射針の使い捨てが可能になり、安全な注射器の世界的な普及に大きく貢献しました。(注1)

製造現場では、外径 20 mm の太さのパイプを 30数回の抽伸工程を繰り返すことにより、外径と肉厚を徐々に細く、薄くしていきます。こうして作られた細管は、ただ細いだけでなく、内面が非常に滑らかである点も特徴です。従来のプラグ無しの空引抽伸のものと比較すると、明確な違いがあります(下写真)。

芯引抽伸の概念図と細管内面の様子(注2)


その用途はコンタクトプローブ用以外にも、さまざまな電極管やヒートパイプ、光ファイバー関連部品など多岐にわたります。最近では、医療分野においても、カテーテル用マーカーの極細管としても注目されています。これには、人体には害がないが柔らかく切れやすい「プラチナ」を使用しているとのことです。(下写真参照)

コンタクトプローブ用精密管(左)とカテーテル(右:この管の先に使用される)(注2)


1ミクロン単位の「すき間」を有する多孔質体

次に紹介するのは、小段金属(株)が開発した多孔質体です。これは「金属の粉末粒子を成型した後に熱を加え粉末粒子を焼結させる」という比較的シンプルな方法で製造されます。

粉末粒子の焼結過程の概念図(注3)

使用される粉末粒子は、小さなものでは 0.005 mm 程度とのことで、連結することで粒子間にできる孔は非常に小さく、連続した多孔質構造が無数に形成されます。この多孔質体は、耐熱性、耐圧性、耐衝撃性に優れているだけでなく、洗浄して繰り返し使用できるという利点があります。そのため、フィルター、消音器、センサーカバーなど、幅広い用途に利用されています。同社ホームページによる主なフィルター用途を下記に示します。

多孔質体のフィルターの例(注3)
主なフィルター用途(注3)

製造の原理は、下写真に見られるように、金属粉体を溶融点付近で焼き固め、点接触で粒子を三次元的に連結させるというシンプルなものです。また、空隙の大きさは金属粉体の大きさで調節することが可能です。

金属粒子が三次元的に連結(矢印部)(注3)


近年では、次世代のエネルギーとして重要な水素を取り出す電極用途を開発しているそうです。この微粒子の焼結法はステンレスだけでなくニッケルやチタンも使用可能で、多孔質で表面積が広い性質も利用して、水の電気分解を効率的に行えるとのことです。自社商品としては、気泡発生ノズルの開発も進められており、これまで未開の領域にも挑戦してい様子がわかりました。


今回は、金属加工分野における二つの最先端技術について紹介しました。現役時代、有機系の材料ばかりに注目していた私にとって、新しい分野の技術に触れる機会はとても楽しいものです。今後も視野を広げ、様々な分野を探求していきたいと思います。


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注1:ビープラッツ・プレス 239号「小さすぎてスゴイ技術」、大阪産業創造館より
注2:(株)日本特殊管製作所 ホームページより https://nittoku.com
注3:小段金属(株) ホームページより http://www.kodan.co.jp


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