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小説「月の満ち欠け」感想文

はじめに


以下、内容のネタバレを含みます。
よろしければ、小説に目を通してから読んでいただけると幸いです。


あたしは、月のように死んで、生まれ変わるー
この七歳の娘が、いまは亡き我が子? いまは亡き妻? いまは亡き恋人? そうでないなら、はたしてこの子は何者なのか? 三人の男と一人の女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく、この数奇なる愛の軌跡。
(引用:「月の満ち欠け」岩波文庫 表紙カバー)


大泉洋さん主演、目黒蓮さん出演で実写映画化されるとのことで、ストーリーを調べてみたが読んでもよくわからない。
原作のあらすじ(上記引用)を読んでも頭の中はハテナマークで、これは予習なしに映画館に突撃するのはキケンかもしれない…
と、文庫本を入手。
読んでみると、そんなに頭がこんがらがることなく理解できたので、そんなに心配なかったかも。



「瑠璃」と出会う三人の男たち(年齢順)

・正木竜之介
正木瑠璃の夫。
正木の一目惚れがきっかけで結婚したが、正木は自分の理想通りの人生を送る道具として妻と子どもが欲しかっただけなのか、瑠璃に愛情が注がれることはなかった。瑠璃が三角と出会う前から浮気相手もいた。
妻の死後、酒やギャンブルに溺れ堕落。
その後再就職し、仕事中に小山内瑠璃と接触している。(その時は自分に関係のある子だと気づかず)
勤め先の社長の娘、7歳の小沼希美が正木瑠璃の記憶を持っていることに気がつく。希美が三角哲彦に会いたがったので連絡先と居場所を突き止め、希美とともに三角のもとへ向かったが、保護者の通報により目的地到着前に女児誘拐の疑いで逮捕された。獄中で死去。

・小山内堅
一人娘に「瑠璃」と名づける。理由は、妻が妊娠中に見た夢で「瑠璃」という名前と「瑠璃も玻璃も照らせば光る」という言葉を聞いたことから。
小山内は瑠璃が正木瑠璃の記憶を有していることに気がつかなかったが、妻は察していた。
妻と娘の死後に妻の友人の弟である三角、娘の友人だった緑坂ゆいと会い「生まれ変わり」について聞かされる。
緑坂ゆいの娘、るりと会ったことで「生まれ変わり」が瑠璃だけではないことに気がつく。

・三角哲彦
20歳のとき正木瑠璃と恋に落ちる。
正木瑠璃の死から18年後、18歳の小山内瑠璃と電話で話す。この時は「生まれ変わり」を信じていなかったが、母親同伴の条件つきで面会に応じることに。しかし、小山内梢・瑠璃親子が三角のもとに向かう途中で交通事故死したため会えず。
7年後、小沼希美からの電話を受け、面会の約束をしたが、希美が道中のSAで事故死したため、ふたたび「生まれ変わり」に会えず。
希美の死から8年後、緑坂るりが勤務先に訪ねてくる。このとき、正木瑠璃の生まれ変わりに初めて会う。


瑠璃と前世を記憶する女の子たち

・正木瑠璃(旧姓:奈良岡)
 正木竜之介と結婚。専業主婦。よく映画館で時間を潰している。少女のように見える時とおばさんに見える時がある。舌を出して笑うクセがある。「死は別の人間に生まれ変わること」「月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す」という独特な死生観を持つ。27歳で電車事故により死去。

・小山内瑠璃
正木瑠璃が亡くなった年に生まれる。
母は三角の姉の友人。
7歳の頃、原因不明の高熱を出し、その後から前世の記憶を蘇らせる。三度家出をし、三角が正木瑠璃と出会った当時のバイト先を訪ねようとして補導される。その後は家出をやめたが、父が「一人で自由に出掛けてよい」と許可した高校卒業の年に再度三角とコンタクトを取ろうとする。電話で面会の約束を取り付けたが、辿りつくことはできなかった。
高校時代に「前世の恋人」の絵を描いていた。
小学生の頃に正木竜之介に会っていて、舌を出す笑い方をしてみせた。

・小沼希美
小山内瑠璃死去の年に生まれる。
父は工務店の3代目社長。先代は正木竜之介の元職場の下請けである縁で正木を採用した。
母は元小学校教諭で、小山内瑠璃の担任だった。
母が希美を妊娠中に、お腹の子に「瑠璃」という名をつけてほしいと言われる夢を見るが、先代社長の反対があり「希美」と名付けられる。
7歳で小山内瑠璃と同様に高熱を出す。
もともと正木に懐いていたが、高熱を出してからは正木を疎ましそうな目で見たり避けたりするようになった。
しかし、ある時希美の方から正木に会いに行き、正木が東京に勤めていた頃の人脈を利用して三角と会おうとする。小山内瑠璃同様、面会の約束は取り付けるが、会うことはできなかった。

・緑坂るり
小沼希美死去の年に生まれる。
母は小山内瑠璃の高校の同級生。るりを妊娠中に予告夢を見る。夢の中でお腹の子が小山内瑠璃の生まれ変わりだと告げられる。
7歳の頃にやはり高熱を出し、その後一人で三角の勤め先を訪ねて三角に会う。
小山内堅と会った時には、小山内堅の娘である小山内瑠璃の記憶と、正木瑠璃の記憶を両方持っているような話し方をしている。
小山内瑠璃が高校時代に描いた三角の肖像画を「あたしのだ」と言い、小山内堅が家族でどら焼きを食べた時の記憶がないことをなじった。
小山内堅に「生まれ変わりは瑠璃だけではないかも」と話す。

・荒谷みずき
小山内堅が妻子を亡くした7年後に出会う女の子。みずから小山内に話しかけ、母娘で小山内と会う仲になった。親しくなると「堅さん」と下の名前で呼ぶようになる。
小山内は緑坂るりに「あなたの奥さんも生まれ変わりの資格がある」と言われたのをきっかけに、みずきが妻の生まれ変わりかもしれないと考え始める。

☆生まれ変わりの合図
・「瑠璃」という名前の由来「瑠璃も玻璃も照らせば光る」
・吉井勇の短歌「君にちかふ阿蘇の煙の絶ゆるとも萬葉集の歌ほろぶとも」
・デュポンのライター
・黛ジュンの歌
・笑う時に舌を出すクセ


感想

映画の予告で見た印象と色々と違う点があったのは気になるところ。早く答え合わせがしたい。

・全体的な印象
泣ける、心温まる…というより、うっすら背中が寒くなるような奇妙さがある。
瑠璃が「生まれ変わり」を繰り返し、そのたびに三角を追うのは「時空を超えた愛」と綺麗に表現するには違和感があり、執念とか執着といった言葉のほうがしっくりくる。
しかし、ラストの三角の一言で一気に涙で目が潤む。読後はじんわり温かな気持ちになった。

・小山内堅について
 小説ではあまり感情を面に出さない人のような印象だったので、映画では三角に対して声を荒らげたり、別の場面では涙を流したりしているのは映画的な演出なのかなと。

・三角について
バイト先がレンタルビデオ店からレコード店に変更されている。それからカメラが趣味というのも映画オリジナルの設定かな。
視覚的な面白さを出すために工夫しているのだと思う。

・正木竜之介について
小山内堅を主人公にするためには正木竜之介のパートはざっくり削られていそうな気がする。クライマックスも小山内にフォーカスされているかもしれない。



目黒蓮と三角哲彦の共通点は?


映画の情報が解禁された時に「原作を読んで、三角は自分と似ている部分があるから自分が演じなければと思った」という趣旨のコメントを出している。雑誌の取材で本人が言うには「20歳の頃の、芋っぽい感じ(女性と上手く話せない奥手なところとか)」がそうらしい。(このへんはデビューしてキラキラ爆イケアイドルしている目黒蓮しか知らない私のような新規にはいまいちピンとこなかった)

ほか、いちファン目線から見て「めめらしいな」と思うところがあるとすれば、まず優しいところ。
雨に濡れた人にタオルを貸してあげたいけど、持っていないから、代わりに着替えのTシャツを差し出す。そして、このことをきっかけにポケットにハンカチ、バッグにはタオルを常備するようになった。
これは「ありそうだな」と思った。

それから、しんどくても仕事はちゃんとするメンタルの強さ。
瑠璃の死を知って、大学は休んでもバイトは今まで通り出勤して同僚にも気づかれなかった。
大学は1年休んだが、その後復学して卒業、大手に就職。
めめに当てはめるとしたら、どんなに個人仕事が重なってもグループでの仕事はきちっとやっていて、ファンは後に情報解禁になってから「あれ?あの時相当大変だったのでは…?」と気がつきがちなところ。

恋愛観については、好きになったらハッキリ「会いたい」と口にするところや、一人をずっと想い続けるところは三角に共感しているのでは、と想像する。

三角は20歳で瑠璃を喪ってから18年独身を貫き、38歳で見合い結婚。これは勤め先で既に役職についており、社会的地位を保つのに仕方がない面があったと思う。
しかし、「生まれ変わり」が本当にあるのかもしれないと思い始めてからは、子どもをもうけず7年後に離婚、たぶんその後も一人で瑠璃の生まれ変わりを待ち続けた。
30年以上一人の人を想い続ける男。
目黒蓮なら演じられるかもしれないと思う。

現在放送中のドラマ「silent」の佐倉想も、自分から別れを告げた恋人を8年も心に存在させていた一途さが似ていて、こういう演技が求められてキャスティングされたんだなぁと。

目黒蓮のファン目線で言えば、確実に俳優としてステップアップした作品になったと思うし、この作品を完成させるという課題をクリアしてからの「silent」であると考えると、「silent」で魅せる演技力の高さに納得がいく。
38歳の三角、楽しみだな…。

最後に、小説予習してよかった。めっきり読書しなくなってしまったけど、推しをきっかけに面白い小説に出会えたので。

映画館に足を運ぶチャンスは一度きりだと思うので、集中して臨みたい。吸水性の良いタオル持参で。

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