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本当にあったこわい(?)話

【チャレンジ 18/20】

夏もいよいよ終わり、いよいよ秋がやってきましたね。
秋の長い夜を明かすにはやっぱり怖い話が一番!
というわけで、私の身に実際に起こった怖い話を紹介します。
私には霊感がまったくありませんので、心霊的事象は出てきません。
また、念のためフェイクをいれてあります。あしからず。


私はその日、美術館に足を向けました。
好きな作家さんの企画展が行われていたのです。
その作家さんの展示を堪能し、常設展なども見ていたのですが、なにやら面白そうな展示を見つけました。

それは白い箱に細い穴があいた作品でした。
人々がその穴をしきりに覗いていたため、私はそれが覗くことによって鑑賞する作品なのだと知ることができました。

さっそく私も覗いてみると、なにやら映像を映し出す作品のようです。
しかし、私は妙なものを見つけました。
視線のすぐ先に名刺大の、女性のものと思しき名前と090から始まる数字の羅列が書かれた紙があったのです。
つまり、誰かの連絡先が書かれた紙があったのでした。
普通ならば、誰かがそこに捨ててしまったとか、単なるいたずらとか考えて、まともに取り合わないのでしょうが、その時の私には衝撃的でした。
覗くための作品の中に、赤の他人がメッセージを仕込む。
これは強烈な視界のジャックであるし、作品のメッセージを上書きして新たな作品を生み出しているように思えたのです。
美術館内の作品とは管理されているのが常ですが、それがこのような俗っぽい物体によって、ある意味汚されている格好なのも強烈でした。

私はひどく興奮しました。
他の人はこれを覗いても特に何も思っていなかったようですし、私だけがこの状況のすごさに気づいたような気持がしました。
また、既存の作品のメッセージ性を破壊し、新たな意味で塗り替える行為がたまらなく痛快だったのです。

一応、常識人である私は、このことをメールで美術館に報告しました(万が一、本当にこういった趣旨の作品だったら恥ずかしいので、直接指摘できなかったのです)。

さて、発見者としての義務は果たしました。
ここからは私の趣味です。

つまり、私はその番号に電話をかけてみたのです。
それを見越してあらかじめ番号を控えておきました。
念には念を入れて、逆探知や相手に番号が知られることを避けるため、公衆電話を探しました。
今にして思えば非通知でかければ良かったですね。
とにかく、私は公衆電話を見つけました。
受話器を取り、10円玉を3枚ほど入れて、番号を押します。


プルルルルルル………………


プルルルルルル………………


………………


「ただいま電話に出ることができません。ピーッという発信音のあとに……」


焦って電話を切りました。
私は心のどこかで、この番号は使われていない番号だということを期待していたのです。
しかし、誰とも電話がつながらなかったことには、少し安心しました。
自分で勝手にかけておきながら、知らない誰かと話すのは怖かったのです。
それに、あの紙を見た人が電話をかけてくることを予想していたのだとしたら……。
どんなことを言われるか分かったものではありません。
そうして、私は公衆電話を後にしたのでした。


覗くという行為はどこか陰がありながら魅力的な響きがあります。
覗く主体は、その客体の無防備な状態を知ることができるのです。
しかし、それがもしも”見せられている”ものだとしたら……。
その主客は気づかぬうちに逆転しているのかもしれません。
あなたは果たして誰かを覗いているのか、それとも覗かされているのか。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」
なーんて、なかなか上手いことを言いますよね。

ちなみに、美術館からの返信によれば、入れられていたのは入場券だったとのこと。特に、そこに書かれていたことについての記述はありませんでした。
以上が私の身に起こったこわい、というか不思議な体験でした。

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