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Abema配信ドラマ「箱庭のレミング」感想~「愚かさ」の裏にある「革命」~

Abema配信のドラマ「箱庭のレミング」1話が面白かった。重たい話でもあるのだが。

1話フル『箱庭のレミング』SNSに狂った姉妹のNEWホラー⚠️閲覧注意⚠️│毎週木曜よる10時ABEMAで放送中 - YouTube

東京(多分府中市)の高校生姉妹。妹はルックスとイメージを前面に出し、SNS動画で人気を博す。しかし姉は引きこもりであり、妹を含めた家族から腫物扱いされていた。あるきっかけから、姉は奇想天外な方法でSNS動画ブレイクを果たし、一気に人気者へ。だが、妹や両親、他の投稿者との関係が次第にこじれていき、周囲を巻き込んだ悲劇が起きる……

ネタバレを避けストーリー紹介すると以上のようになる。総監督が「新聞記者」「ヤクザと家族」の藤井道人氏だからか、ありきたりに「承認欲求」「SNSの危険性」「いいね依存」を描いただけの作品になっていないのが特徴だ。

もちろん「承認欲求」「SNSの危険性」「いいね依存」もしっかり描かれており、姉妹役の女優の迫力ある演技により、引き込まれるものとなっている。
一方で、SNSが姉妹、特に姉にとっての「解放区」になった事実を見落とすべきではない。

聴衆からバカにされる事で「いいね」を稼ぐのがスタートだったにしろ、家族から腫物扱いされていた姉が注目される方法を見出し、バカにされてもありきたりに落ち込むのでは無く、それすら利用して、「暴走」する流れには危うさと同時に痛快さも感じる。
元々SNSの人気ものだった妹も、物語の後半で、元々は蔑んでいた姉に対し、リスペクトするような行動を見せている。

もちろん起きてしまった悲劇は許されるものでは無い。しかしSNS無しでも家族関係が欺瞞を含みこんでいた以上、姉の行動や、最後に妹が見せた「ある表情」(物語があまりに綺麗にまとまるのを防ぐためのシーンと思われる)も含めて、両親から自立していく姉妹の姿というのは、善悪を越えた主体性を感じられるものであり、その背景に、日本のジェンダー構造や、そこから生じる家族の閉塞性がある事をサラッと描き出す、藤井氏の手腕も光るのである。

SNS始めインターネットというものは、問題山積な訳だが、それ無しでは生活が難しいくらい浸透してしまっている、不思議なインフラである。唐突かもしれないが、それは「社会主義」に似ている。

「社会主義」は歴史上大半を暴力革命により実現され、無数の抑圧と悲劇、硬直した社会システムを生み出し、1990年代前半に大半のシステムが崩壊したとされている。
しかし一方で、初めて体系的な男女平等の法システムを導入したのは社会主義国家であり、一時的であれ貧農、労働者、あらゆる少数派にとっての平等を達成する事ができた。欺瞞だらけでも社会保障システムが一応整備された事もあり、西側諸国としても、「変な革命だけは起こすなよ」とばかりに社会保障システムを整備し、結果として、世界中の人民の福利増進に役立った。
旧来の産業が富を生み出しにくくなった事と、新自由主義の進展による社会保障の後退、貧富の格差は、西側含めた世界中でポピュリズムやテロに、混乱の機会を与えているようにも見える。「社会主義」にも一応の存在意義はあったのだ。

インターネットも、誹謗中傷や極論での叩き合い、薬物含めた不正取引の温床になる等、「新たな世界民主主義の担い手になる」という当初の予言からは完全に外れた暗黒世界と化している面はある。
しかし、SNSがあるから、コロナ禍でも一定以上の社会運動が成り立ち得たり、(偏る危険性はあるにしても)SNSがきっかけでフェミニズムやアンチレイシズム等について学び始めた人も一定数いるのではないか。SNS上で普通に知り合い、健全かつ建設的な人間関係を築いてる人も多いだろう。危険な人に出会い損をしたという話が目立ちやすいから、その陰に隠れているだけで、実際は弊害よりメリットの方が大きいという事もあり得る。

真の多様性を標ぼうしながら、実際には独占、誘導、画一性、競争阻害といった方向に向かっているのも、「社会主義」とインターネットの似ている面だ。

話が随分と飛んでしまったが、とにかく、一見愚かで悲劇的に見える現象でも、そこに前を向こうとして人々が付けた引っ搔き傷が無いか、よく目を凝らした方が良い。マルクスがかつて見出したものに匹敵する革命の萌芽が見つかるかもしれない。

私自身も、もう少し愚かさをさらけ出しても生きていけるような、スッキリした世の中で生きていきたいのだから。


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