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キューバでの新家族法の試み~やらなければいけない事は全てやる~

※ひとまずソースを付けたり、具体的な内容チェックを先送りして公開しま
す。また後日参考資料を付けたり、修正する予定です。なので誤り等あると思いますが、ご理解ください。

包括的、先進的な新家族法の成立なるか

中南米の社会主義国、キューバで、9/25(日)新家族法が国民投票にかけられました。ニュースを参考に計算したら、現地時間17時の時点で投票率は約7割でした。(強い雨の影響で投票時間が延長されたそうです)

元の家族法は1976年制定であり、時代や国際的な状況の変化に対応したものと思われます。

2019年までの憲法改正プロセス等、キューバではおなじみの方法ですが、新家族法についても、法律の専門家等、政府が出した草案に対して、国会や専門家間、そして市民の各セクションで討議が行われ、その過程で数百万人が参加、案の内容の半分が修正されたそうです。

少ない日本の報道や、西側の報道では、ほぼ「同性婚の解禁」に焦点が定められ、確かに重要な事ですが、国民投票で成立が目指される新家族法とはどのような内容でしょうか。

新家族法の内容(抽出)

私は現在、性的少数者でも、何らかの障害者認定を受けている訳でもなく、人種的にも日本では多数の内に入りますし、そういった問題の研究者でも無いため、新家族法を、世界的なあらゆる多様性を尊重するよう求めていく流れのどこに位置付けるべきか、細かいところは分かりません。

しかし、新家族法の内容を様々な記事から把握するよう努めたところ、「隅に追いやられたり、日が当たらなかったあらゆる人生を可視化させ、好みや必要な援助、選択等に伴う自己決定権を尊重できるようにし、実際に尊重できるよう具体的な対策に繋げるための法律」との印象を受けました。

全てを紹介することは難しいですが、私が重要と感じた内容を取り上げていきます。

(1)同性愛者の権利
今回一番注目されているところですが、同性婚と、同性カップルが子供を持つ権利を保障するそうです。「婚姻は男女間」から「個人間」になるとのことです。

(2)子供の権利
両親の子供への監督の義務から、養育の義務に切り替え、支配から尊重へ重心を置きます。両親は子供の権利、好み、特性等を十分に尊重しなければならないとのことです。

(3)女性の権利
平等に男性と家庭に責任を負うことや、中絶の権利等を尊重しています。

(4)暴力への対処
家の中での身体的、精神的、経済的、ネグレクト等のあらゆる暴力を禁止し、その被害者、目撃者は、緊急事態として、民事裁判所に保護を訴えられるようにしています。

(5)障害者の権利
好み、指向等に応じた環境を選べるものとし、自分に合わない場合は、環境を変えられる権利を保障するとのことです。

(6)介護者の権利
介護が必要な人に、実質的に長く時間や労力等を提供していた人を可視化し、相続権や、必要な際に兄弟等へ援助を求められる権利を保障するとのことです。

その他にも、結婚年齢の性別平等な引き上げ、オンブズマンの設置、代理出産について、またあらゆる特徴に基づく差別の禁止等が印象に残りました。

上に取り上げた項目のほとんどは、今回の新家族法で初めて国家が取り組んだものでは無く、革命直後から、誤りや試行錯誤もありながら、一歩一歩取り組まれてきたものです。元の家族法制定が1976年ですから、時代の変化もさることながら、国が実行している施策とも合わせる形で、今回新家族法の成立が目指されたものと思われます。

また、項目を書き出す中で、条文間の繋がりや、より深い意味、他の重要な条文等を取りこぼしたのではないか、という不安があります。やはり、私が何らかの当事者や専門家で無いことの限界もあるでしょうが、無関係では無い、という事を出発点に、インプットを続けていきたいと思います。

キューバでのジェンダー、性的少数者政策の歴史

キューバは革命後の努力により人種差別をかなり減らし、(ネルソン・マンデラにも賞賛されたような)アフリカ等の人種による抑圧との闘争への支援と貢献が、詳しい人には知られています。では、ジェンダーや性的少数者への尊重という点ではどうだったのでしょうか。(今回の新家族法の背景ともなります)

結論から言えば誤りもあり、いまだ課題もありますが、「偉大な革命政権が女性達に権利を与えてやった」というものでは無かったのは確かです。

革命政権の成立に女性達が主体的な貢献をしたのもそうですし、ゲリラ戦の中で、フィデル・カストロは武器が足りなくなったら女性に優先して配布するようにしていたといいます。

革命政権の成立後も、国会、閣僚、専門職、各セクションの指導層への女性の数は増え続け、家事負担の平等化に向けた具体的な施策も行われました。
産休、育休といった制度も、先進的なものが導入されています。

米国の経済制裁等による困難にも関わらず(私は指標自体、一つの参考に過ぎないとは考えていますが)近年のジェンダーギャップ指数でも30位台~20位台を行き来していました。

ジェンダー平等については、実は崩壊した旧東欧等の社会主義圏の方が、完璧には遠かったとはいえ、資本主義の諸国より進んでいたという研究もあり、キューバの施策も、そういった影響もあるかもしれません。

いまだに宗教的影響が大きい中南米では少ない人工妊娠中絶を保障している国でもあります。(新家族法で改めて保障)

性的少数者政策については、革命政権成立後、差別があったのは確かで、労働キャンプに送り、国内外からの批判を受けて撤回したり等、(革命前からの悪しき伝統を引き継いだ面もあるでしょうが)誤りがありました。

1980年に女性連盟が差別を違法としてから、徐々に状況が変わり始めます。1994年には世界的に評価の高い、革命政権の同性愛者政策の闇を描いたと言える「苺とチョコレート」が制作、上映されますし、1980年代末より性別適合手術が行われ、無償化されています。

こうした誤りから改善への道に大きく貢献したのが、女性連盟に貢献したビルマ・エスピンとラウル・カストロ(フィデルの弟)の間に生まれたマリエラ氏です。彼女のインタビューを読むと、ジェンダーや性的少数者の権利について、キューバには深い知見があることが分かると同時に、そうした政策について党に理解し動いて貰うまでの苦労も隠さず語られており、国全体の試行錯誤が伺えます。

そして2019年の憲法改正で同性婚が保障される予定でしたが、激論の末見送られ、今回の新家族法まで結論が持ち越されることとなりました。

(憲法改正にしても、今回の新家族法にしても、市民の議論を動画で観ると「誰の権利も同性婚で制限されない。権利をより社会全体に広げる試みだ」という意見と教会関係者等からの「長い伝統に裏打ちされた男女間の神聖な婚姻に混乱を持ち込んではいけない」という意見の分断が目立った印象です。日本での選択的夫婦別姓や同性婚にまつわる議論にも共通しないでしょうか)

その間にも、今年の5月に中南米初となる、イベント、講義、パネルディスカッション等からなる「LGBTQ+歴史月間」が開かれる等、努力は続けられましたが、当事者からしたら「いつになれば前進するのか」という思いもあったはずです。

そして、今回の新家族法国民投票の日となりました。

未来に向けて

キューバはここ数年、政治経済的には窮地に立たされています。苛烈化する米国の非人道的な制裁、コロナウイルスによる観光業への打撃と一時期の感染急拡大、広がる不満と米国の意図が絡み合った反政府デモ、石油施設の事故と相次ぐ停電、日用品の不足と増え続ける移民……ネガティブ要素は山積しています。

一方で、ワクチンの開発からの超人的な接種スピードとコロナ鎮静化、そして観光業再開、オリンピックでのメダルラッシュ、世界中からの(一般市民も含めた)莫大な支援がありました。窮地の中、イタリア等に医療団を派遣し、ワクチンを国外にも普及させ、国際連帯も健在です。

世界的支援と、今回の新家族法の国民投票への過程で見られたボトムアップがあれば、制裁を終わらせる力になるとともに、経済の不効率運営や、表現の自由への制限等、キューバ自身の問題を克服していく、「大きな力」になるはずです。

「大きな力」への具体的な貢献は難しく、寄付、情報発信、ラム酒を買って呑むくらいしか浮かびませんが(しょっちゅう旅行できる距離の国では無いですし……)大勢が不安にかられ、内向きになりながらも、外には支配欲を向けたがり、そうした闇が権力者に吸い取られるこの世界において、月並みですが、選挙に行き、知らなかった問題に耳を澄まし、できる範囲で良く生きる(Buen Vivir!!)ことが、小さな波紋でも、遠い小国を確実に応援できる道では無いでしょうか。

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