ウクライナの方がカバーしたBUCK-TICKの歌
皆さんはBUCK-TICKというロックバンドをご存知でしょうか。
全く知らない。聴いたことはある。いくつか曲は知ってる。色々な方がいると思います。
1980年代から活動を続けるバンドで、メンバーチェンジをせず、極限まで髪を逆立てたスタイルの初期から、黒服に身を包んだ中期、そしてラフさとゴージャスさを自在に行き来する現在までと、いわゆるビジュアル系バンドの先駆けの一つとして、根強い人気を保って来ました。
サウンドや歌詞の面でも、「本当に凄いバンド」に共通する事でしょうが、相反する要素を兼ね備えながら、それら全てを作品にまとめ上げる事で、唯一無二の世界を構築してきました。
力強いサウンドがバシバシ響いてくるのに、どこか軽快さを保っていること。
おとぎ話のような言葉が散りばめられた歌詞の中に、揺らぐ人間の実存がストレートに綴られること。
スタイルが変化を続け、演奏面でも実験的な試みが次々為されるのに、どこか歌謡曲的だったり、ポップなメロディが耳に残ること。
以上挙げた事はバンドが持つ「相反性」のほんの数例ですが、相反するいくつもの要素を糸に絡め、自在に操る事で、何十年も先進的な作品を生み出し、クオリティの高いライブを続けてきました。
そんなBUCK-TICKの曲に「Love Parade」という、どこか切なげなポップソングがあり、聴きたいな、と思ってYouTube検索をしたのですが、本人の映像では、ちゃんとしたものが出て来ませんでした。そんな中、見つけたのは以下の動画です。
2017年にウクライナの方がカバーされた演奏。淡々とした安定のギター伴奏に、かっこよさげなボーカル。髪型のスタイル等も、どこかBUCK-TICKの雰囲気に合っています。
曲や歌詞に漂う雰囲気もあり、そして今、この方はどうしているだろうか。
そう思い、私は切なくなりました。
そして、もう一曲、BUCK-TICKの曲で思い出した作品がありました。
浮遊感のあるゆったりした始まりから、アップテンポになり、力強いサビに行きますが、浮遊感は失われないという、バンドの持つ「相反性」が見事昇華された名曲です。
この曲はいつかのライブで、「Love Parade」の次に流れていたのですが、それだけでなく、YouTubeのコメントで「戦争のことで落ち込みながら仕事をしてたら流れて来て、曲の力強さに涙が出て来た」というものがありました。
コメントの時期的に、ウクライナ戦争である事は間違いありません。
他にも「応援ソングで無いが励まされた」といったコメントも複数ありました。
私はここまでBUCK-TICKを「相反性」というキーワードで語って来ましたが、「応援ソングでは無いが励まされる」という言葉は、バンドが持つ最も巨大な相反性を読み解く上で重大なヒントになると思います。
「押しつけがましく無いが、どこまでも突き進もうとする事」
これがバンドが持つ最重要な相反性と私は感じています。
どこまで深淵な闇を表現しても、絶望を聴き手に押し付ける事無く、ただただ真っ暗な底で、櫻井敦司氏(ボーカル)の言葉が佇んでいます。
「New World」も優しげなサウンドと力強さが同居し、矛盾に溢れた宇宙や世界についてただただ語られた後、最後だけ力強いメッセージが歌われます。
だけれどそれは何かを押し付ける力強さでは無く、どこまでも自ら耳を澄まし想像力で闇を照らし、例えばウクライナでもどこで起きている戦争や悲劇でも、忘れる事無く、平和の為に現実と歴史へ目を凝らし続け、微力を積み重ね続ける事に繋がるのかもしれません。
(最後に)
曲をカバーされたウクライナの方が今どうしてるか、気にしていると書きましたが、YouTubeチャンネルから確認したら8月の最近に動画をアップされているのに気づきました。
戦争が彼女から奪ったものの大きさを感じましたが、生きて戦争を憎み平和を願い続ける思いにも触れました。
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