見出し画像

おすすめの曲㉑:ダンツィ「木管五重奏曲」

 「木管五重奏」というジャンルをご存じでしょうか。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンという5つの楽器が、ひとりずつ参加し、計5人で演奏する室内楽です。「弦楽四重奏」などに比べれば、はるかにマイナーな室内楽になりますが、私のように木管楽器をやっている人間にとっては、とても重要な編成の室内楽となります。(「木管五重奏」と「管楽五重奏」は同じ意味です。「金管五重奏」はまったく違うものです。)

 まず、はじめて初心者が木管五重奏団を結成して取り組むべき曲は、ハイドンのディヴェルティメント(変ロ長調の有名な曲。「聖アントニのコラール」。「第2楽章がブラームスのハイドン変奏曲の主題になっている」と言えばかなり通じるかも)か、モーツァルトのセレナードのハ短調だろうと思います。私はいずれもやっていません。しかし、その代わりというか、モーツァルトのディヴェルティメントをはじめにやりました。それにしても、じつは、「木管五重奏」の曲は、ハイドンもモーツァルトもベートーヴェンも、1曲も書いていないのです!上記のハイドンのディヴェルティメントも、オリジナルは木管八重奏(オーボエ2、ホルン2、ファゴット3、コントラファゴットまたはコントラバス1。コントラバスはしばしば木管アンサンブルの低音として使われます。モーツァルトの「グラン・パルティータ」しかり、現代でも吹奏楽にコントラバスは使われています)ですし、モーツァルトのセレナードも、オリジナルは木管八重奏です(オーボエ2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2)。(ちょっと付け加えると、モーツァルトのハ短調は、弦楽五重奏版もあるのです。ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ。モーツァルトはヴィオラを2にするのが大好きなのだ。でも、木管五重奏版はないです。)私がその2曲をやらなかった代わりに私がやったモーツァルトのディヴェルティメントも、オリジナルは木管六重奏でした(オーボエ2、ホルン2、ファゴット2)。いずれ、そういう曲も紹介したいと思っていますが、ここでは、ダンツィの木管五重奏曲を紹介したいと思っています。

 「ダンツィ」という作曲家は、多くの人は知らないのではないかと思います。だいたいベートーヴェンやウェーバーと同じころに活躍した作曲家で、広い意味でマンハイム楽派の音楽家です(おおざっぱに言って、「モーツァルトみたいな」作風の作曲家。きょうは、「ひいきのアーティスト」という記事で、カール・シュターミッツの話をさっき書きましたね。そんな作曲家のひとりです)。そして、ダンツィこそは、さきほどのハイドンやモーツァルトの編曲物をクリアした初級の木管五重奏団が次に取り組む曲たちなのです!ダンツィは、番号のついている有名な木管五重奏曲でも、9曲は書いています。われわれがやったのは、op.68-3というニ短調の作品でした。いつだったか、学生オケの合宿での室内楽の発表会で、ダンツィの9曲のうち、8曲までがプログラムに入っていたことがありました。この記事は、あくまで「演奏するかた」というより「鑑賞するかた」向けに書いているつもりです。モーツァルトのような音楽が好きなかたには気に入っていただける可能性がじゅうぶんにあると思ってご紹介しています。ダンツィには、フルートとクラリネットとオケのためのコンチェルタンテもあり、それもいつかご紹介したいです。

 さて、ダンツィよりも少し難易度が上がると言われる木管五重奏曲が、ライヒャの木管五重奏曲です。私は、ライヒャの経験がありませんので、ライヒャについて詳しく書けないのですが、ダンツィよりは高度らしいです。(じつは、ライヒャの木管五重奏曲を聴いたダンツィが、自分も木管五重奏曲を書こうと思ったという話も聞いたことがあります。)ライヒャの木管五重奏曲はたくさんあり、20曲以上あると思います。そのつぎくらいに取り組む木管五重奏曲がタファネルの木管五重奏曲です。タファネルは1曲ですが、ダンツィ、ライヒャと来て、フランス系の木管五重奏曲に触れるチャンスですが、タファネルの木管五重奏曲は、「いい曲だ」という人と「ダサい」という人に分かれます。私にはどちらの気持ちもわかる気がします(私は個人的には好きです)。あと、グノーに「小交響曲」という、木管五重奏を倍にした十重奏の室内楽があったりします(さきのモーツァルト作品みたいに、偶数の木管楽器を基本にした編成とも言えますね)。近代に入ってからは、木管五重奏曲のレパートリーは、ぐっと増えますので(作曲家が、まだあまり書かれていないジャンルということで、多く書くようになったという側面はたぶんにあるだろうと思います)、ここでは紹介しきれないほどになります。とりあえずきょうは、「モーツァルトみたいに聞こえる」ダンツィの木管五重奏曲をご紹介して終わりです。私はちょっとだけくやしいのですよ。弦楽四重奏曲は「一流の作曲家」が書いていて、木管五重奏曲を書いている作曲家は二流の作曲家だと思われているのが…。どうしても近代の木管五重奏曲を聴きたいかたには、ミヨーの「ルネ王の暖炉」を紹介しておきましょうか。これは二流の音楽ではありませんよ。ニールセンの木管五重奏曲も、フランセの木管五重奏曲も。ああ、「終わり」と書いてから、ちょっと二十世紀の木管五重奏曲の紹介もしてしまった…。これでほんとうに「終わり」です。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?