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大学を偏差値で見る

 大学院を修了できなくなって、博士課程を単位取得退学し、30歳のときに教員になってはじめて知ったことがたくさんあります。最も知らなかったことは、「医学部は入るのが難しい」という事実です。その認識は30年間、ありませんでした。「医歯薬系」などと言うのですね。受験業界用語です。そして、大学をすべて偏差値で見ます。多種多様に見えていた大学の世界が、ただの数字になってしまいました。愕然としたものです。これが受験の世界か…。

 図書館には「大学ランキング」などという本があり、よく読まれていました。皆さんランキングが好きなのですね。自分の専門分野だったところを開いてみます。「どう考えても東大が一番でしょう」というところで、あえて他の大学が書いてあります。あるいはある大学で「河内明夫などスタッフも充実」などと書いてあったりします。河内明夫先生を誰だと思っているのだ!

 大学生のときに教職の単位をそろえました。あるとき、東大附属高校の先生の話を聞きました。久しぶりに高校の先生の話を聞き「そうそう、これが高校の先生」と思った記憶があります。「こういう質問にはこう答える、そう来たらこう答える」というパターン思考があり、その引き出しからこちらの質問に答えているのです。私の質問は、そのパターン化されない微妙な質問なのに、その機微を理解しないで、ただ、「そう来たらこう答える」という対応をされました。大学の先生の柔軟さに慣れていた私は、久しぶりにそういう人に出会って「そうだった、こうだった」と思ったのでした。その先生は、東大生(数学科)のたくさん見学している数学の授業で「linearly independent」と言いました。線型独立(一次独立)と言いたかったわけですが、わざわざ英語で言った。英語で言う必要はないところですが、後ろにたくさんいる東大生の前で、知っているところを見せたかったのでしょうか。

 高校の教員になって知ったことはほかにもあり、「国語」「数学」「英語」の3教科が重視されていることなどもそうです。知りませんでした。私は自分の高校時代の偏差値も知りませんでした。よく生徒から聞かれたものですけど、知らないので答えようがありません。(皆さん、偏差値の定義はご存知でしょうか。(偏差)÷(標準偏差)ですよ。)

 とにかく受験業界というのはものさしがひとつであることが驚きでした。高校までの世界はそうだったのです。ダニエル・タメット氏によると「IQ」というのもそのようなものであるらしいです。私は自分のIQも知りませんし、どのくらいがどの程度になるのかも知りませんでした。人の性格がさまざまで、ひとくちに語れないように、大学を偏差値でしか見ないというのも極端なのですが、これが高校における標準的な見方なのでした。「ランキング」というのも同様です。「医学部は難しい」というのも同様です。私はそういう「受験の常識」を知らずに16年前に教師になりました。そして5年前に教師を辞めさせられ、いまは2年間休職しており、まもなく仕事そのものを辞めさせられます。自分が受験業界に向いていないことに気づくのが遅かったというべきか、この歳になってようやく辞める決意ができたということか。そもそも「高校は受験業界」っていうことを知らなかったんだよ!!

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