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「ドイツのストコフスキー」

さて、またクラシックオタク話をだらだら書きますか。本日の午後6時半には、もっとマシな、数学ブログの定期更新もありますので、オタク話にご興味のないかたには、そちらをお読みいただければ、と思います。では、はじめますね。

また「好きなCD」の話です。これは、著作権が2003年と書いてありまして、私の長いストコフスキー歴のなかでは、それほど古いCDではありません(にしても20年も前のCDですが)。2枚組であり、1951年ミュンヘンと、1952年ハンブルクの演奏会のライヴ録音から構成されています。

まず、1951年ミュンヘンでのブラームスの交響曲第2番が入っています。1951年7月16日、バイエルン放送交響楽団の演奏会です。このCDにはブラームスの2番しか入っていませんが、この日は、ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲、ラグルスのオルガヌム、シェーンベルクの室内交響曲第1番、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲が演奏されました。シェーンベルク以外は録音が残されています(いま、私が授業前の時間調整音楽としてパソコンに取り込んでいるものとして、この日の「火の鳥」組曲があります)。じつはシェーンベルクの室内交響曲第1番はストコフスキーがアメリカ初演した曲で、ストコフスキーは若いころ、シェーンベルクの全作品を取り上げる計画を立てるほどシェーンベルクに入れ込んでおり、作曲者であるシェーンベルクとも親しかったのですが、あまり録音が残らなかったのは残念です。この日の他の曲の録音が残ったことからしても、残念ですね。それはともかく、このCDに収められているのはブラームスの交響曲第2番です。

このブラームスの2番は、このころのストコフスキーの「客演の定番レパートリー」のひとつでした。たとえば牧師にしても、他の教会に呼ばれて話をするときには、自分の得意な話を持って行くものです。ストコフスキーもこうして他のオケに客演するときには、得意な曲を持って行ったものです。この「ブラ2」は、後述の「チャイ5」と並んで、ストコフスキーの当時の客演レパートリーでした。その全盛期の録音が残ったことになります。

前にも書いたことのあることですが、この日の11日前、オランダのアムステルダムで、コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮して、ストコフスキーはやはりブラームスの交響曲第2番を取り上げています。同じヨーロッパ単身滞在のときの演奏会でしょう。私にはミュンヘンとアムステルダムがどれほど地理的に近いのか(遠いのか)もぴんと来ませんが、おそらく近いのでしょう。このころのストコフスキーは、どこかのオケのポストにいませんでした。1951年といえば、ニューヨークフィルの指揮者のポストがミトロプーロスに決まり、ストコフスキーは1950年4月にマーラーの交響曲第8番をやってフリーの指揮者となったのでした。このCDに収められたのは、そのころのストコフスキーの実況録音なのです。同じときのヨーロッパ滞在と思われる演奏会記録としては、1951年4月27日から始まるロイヤルフィル(ロンドンのオケ)の1か月以上に及ぶツアーを指揮したこと、そのロイヤルフィルの凱旋公演であると思われるロンドンでの5月27日の演奏会および6月4日の演奏会があり(だいたい同じ曲をやっているので、同じときのヨーロッパ滞在だと想像ができます。ストコフスキーは同じ曲のパート譜を持ち歩いていたわけです。いまと違って紙の楽譜を持ち歩かねばならない時代でしたし)、そして、同じロンドンで、6月9日と10日にBBC交響楽団を指揮しています(このときにストラヴィンスキーの「春の祭典」を指揮しているのですよね。結果的にほとんど録音の残らなかったストコフスキーの「ハルサイ」、これも録音が残って欲しかったですね…)。そして、ヨーロッパ大陸に移り、6月27日にハーグ・レジデンティ管弦楽団(ショスタコーヴィチの前奏曲と、チャイコフスキーのロミオとジュリエットの録音が残りました)、そして、先述のコンセルトヘボウ管弦楽団、そしてこのバイエルン放送交響楽団と続くわけです。このあとは、リヴァプールで再びロイヤルフィル、ルツェルンでルツェルン祝祭管弦楽団、ザルツブルクでウィーンフィルと8月の予定をこなしています。

それで、このときのコンセルトヘボウのブラ2が、傑出した出来栄えなのです。はじめて聴いたときの衝撃は忘れられません。とくに、第4楽章ラストでの大きなリタルダンドには驚きを隠せなかったものです。全体にいきいきしていること、すごいの一言ですね。ちょっとコンセルトヘボウのブラ2をほめ過ぎですが、比較をしなければ、それと2週間と違わないこのバイエルン放送交響楽団のブラ2も充分に感動的な演奏です。このころのストコフスキーは絶好調でした。ストコフスキーには2種の「ブラ2」のレコーディングがあります。1929年のフィラデルフィア管弦楽団の録音と、それから半世紀近くあとの1977年(ストコフスキーが95歳で亡くなった年)の2種です。しかし、いずれもストコフスキー壮年期のすごさが聴けるわけではありません。1929年はまだストコフスキーが本領を発揮していませんでした。しかし、そのころ(私が大学1年で、東大オケの駒場祭でブラ2をやることになっていたころ)、このCDは持っており、合宿でみんなと聴いた覚えがあります。1977年の録音はいくらなんでも肝心の油が抜けてしまったころの録音であり、やはり今回、紹介する、50年代くらいの勢いのある演奏を聴くべきところでしょう。このバイエルン放送交響楽団ライヴもすばらしいです。録音が残ったものとしては、1953年のベルゲンでのベルゲンフィル(ベルゲンはノルウェーの都市)のライヴ録音があります。1955年にはウィーンフィルでも取り上げています(さっきちょっと書いた1951年のザルツブルクでの演奏会ではなく、ウィーンでの演奏会です。このときは自分で編曲したバッハのほか、モーツァルトの40番とブラ2です。カルロス・クライバーみたいですな)。いきいきとしていて、ブラームスの本当のよさが伝わります。この「ブラームスの本当のよさ」という記事は、いつか書きたいと思っています。私はストコフスキーによってブラームスのよさにも目覚めたのです。それは日を改めましょう。

この2枚組のCDで、1951年のライヴ録音はこの1曲だけになります。あとは、1952年のハンブルクでの、北西ドイツ放送交響楽団のライヴ録音となります。この日の演奏会はすべてが録音され、すべてがこのCDに収録されています。貴重なストコフスキーの演奏会記録だと言えます。

これは1952年7月7日のハンブルクでの演奏会であり、これもストコフスキーがフリーの指揮者であった時代のライヴ録音であると言えます。翌8日には同じプログラムでデュッセルドルフでも披露していますが、残された録音はこのハンブルクでのものです。ベルリオーズの「ローマの謝肉祭」序曲、ファリャの「恋は魔術師」、ラファエルの「ヤボナー」、チャイコフスキーの交響曲第5番です。

ひとことで言って、あまりうまいオケではありません。しかし、ストコフスキーがすごいなと思ってしまうのは、短時間の練習時間しかないはずなのに、すっかりオケを自分の色に染めて、「芸の力」で聴かせるものにしてしまうことです。「オケがあまりうまくない」「録音が古い」などということは気にならなくなってしまいます。ひたすら音楽のよさにひたることになります。

これも、ヨーロッパ客演のときの一部の記録ですので、その前後のストコフスキーの活動を紹介しますと、6月10日と17日には、フィレンツェで、フィレンツェ市立劇場管弦楽団、20日にはミラノでスカラ管弦楽団、24日にはチューリヒでトーンハレ管弦楽団、7月1日には再びミラノでスカラ管弦楽団、そしてこのハンブルクでの北西ドイツ放送交響楽団となるわけです。

ベルリオーズの「ローマの謝肉祭」序曲は、先日の記事で晩年のナショナルフィルのレコーディングを紹介いたしましたが、これはまさに壮年期のすさまじいばかりのストコフスキーの実力の発揮された演奏となります。一瞬もゆるまない集中力!すごいという一言です。

ファリャの「恋は魔術師」も、ストコフスキーが客演のときにしばしば持って行った、得意中の得意の演目です。ストコフスキーがアメリカ初演をした曲のひとつであり、生涯にわたって得意にしたレパートリーです。情報があまりなかった30年前の私の学生時代には、BBC交響楽団のプロムスでのライヴ録音のCDに「ストコフスキーの珍しいレパートリー」と書かれていましたがもちろんそれは誤りです。こうして世界中にライヴ録音が残っています。1958年のソ連に単身で訪れたときの映像まで残っています。ちなみにこの作品は、ストコフスキーは必ずと言っていいほどメゾソプラノのソロを伴って上演しました。この北西ドイツ放送交響楽団ライヴは、珍しくオケだけで演奏しています。オケだけで「恋は魔術師」を演奏したライヴ録音は、先述のコンセルトヘボウ管弦楽団ライヴと並んで、私はこの2種しか知りません(コンセルトヘボウでもやっているのです。ほんとうに得意なのです。コンセルトヘボウ管弦楽団ライヴもいつか記事にしたいですね)。これもすっかり曲が自分のものとなっており、いきいきした音楽が展開されます。さすがストコフスキーです。

2枚目に行きます。ラファエルのヤボナー(と発音するのでしょうね。RaphaelのJabonah)というバレエ音楽です。まったく有名でない作品だとは思いますが、聴いてみるとなかなかよい音楽です。10分ちょっとの短い曲ですが、いい曲です。楽しい曲です。ストコフスキーは、こうして新曲の開拓が大好きでした。このころフリーの指揮者であったストコフスキーは、このように初めて指揮するオケでも、こういう冒険的なプログラムを組んでいたということだと思います。そして、実際にストコフスキーが新曲を開拓したおかげで世間に及んだ影響ははかり知れません。ラフマニノフの音楽をいち早く高く評価していたのはストコフスキーであるわけです。すごいことです。

そして、チャイコフスキーの交響曲第5番です。これこそストコフスキーの客演レパートリーの交響曲としては、この時期、先述の「ブラ2」と並ぶ代表的なものでした。世界中にたくさんのライヴ録音が残されました。そのうちのひとつです。この録音は、最初、北ドイツ放送交響楽団と表記されて1,000円くらいで売られたのですが、間もなくこのCDが出て、私もこちらで聴くようになった次第です。これこそストコフスキー入魂の演奏であり、あちこちでやっていたのでしょうが、壮年期のストコフスキーのすごさを語って余りある演奏です。確かにオケはうまくないですし、録音も古いかもしれません。しかし、これこそチャイコフスキーの5番の真価を示した演奏なのです。このCDの発売から20年。私はずっとこのCDを愛聴して来ました。ストコフスキーのチャイコフスキー5番では、NBC交響楽団ライヴや、最晩年の国際青年管弦楽団ライヴなど、「これぞ」というものを聴き込んで来ました。いまの私が最も打たれる演奏は、アメリカ交響楽団のライヴです。さすがだと思います。演奏の鬼気迫る感じでは先述のNBC交響楽団ライヴかもしれません。それに比べたらこの北西ドイツ放送交響楽団ライヴはそこまでの「すごさ」はないのかもしれませんが、しかし音楽は比較ではないのです。この演奏を聴いていると、私は感動するのです。つくづくストコフスキーは「乗せる」のがうまいと言わざるを得ません。オケが乗って演奏しているのがよくわかります。ストコフスキーのマジックです。すごいことです。

ストコフスキーのチャイコフスキー5番について、少し補足をいたしますと、この時代の客演ライヴが最もたくさんの録音が世界中に残った感じではありますが、私がはじめて接したのは大学1年のとき、有名なデッカのステレオ録音においてでした。当時の私はチャイコフスキーの5番という曲は知りませんでした。寮の先輩に聴かせたところ、第1楽章のクライマックスでストコフスキーが楽譜にないフェルマータをしたので「これがストコフスキー節かな?」と言われたのを覚えています。しばらくストコフスキー以外のチャイ5は受け付けない時代が続きました。私のストコフスキーマニア道はひとすじに続き、以下の、日本語で最も充実したチャイコフスキー5番の全録音リストからも漏れたストコフスキーのチャイ5の録音を2種も持っています。ひとつは1946年のハリウッド・ボウル交響楽団のライヴであり、もうひとつは1966年のニュー・フィルハーモニアのプロムスライヴです。

チャイコフスキー:交響曲第5番 全ディスク年表~湧々堂 (wakuwakudo.net)

チャイコフスキーの5番は、去る7月30日に、久しぶりに生で聴きました。そのときの記事(なんと聴く前に書いた記事)で、この曲については思いのたけを書きました。最後にリンクをはりますね。律儀にお読みになる必要はございませんよ。

このLeopold STOKOWSKI in GermanyというCDは、harmonia mundiというれっきとしたところから出たCDであり、周到にプログラムされた2枚組のCDだと思います。いまでも手に入るのかどうかはわかりません。私は発売直後に購入し、ただそれはわりとすぐに再生に問題が出て(不良品だったということです)、購入し直したところ、今度は問題なく、20年くらいたつ今でも問題なく再生できます。クラマネという無料で音楽が聴けるアプリでも聴いていたことがあるのですが、それはどうもあやしいアプリでした。たとえばこのアルバムでは、ラファエルのヤボナーだけ著作権保護期間にあるので有料でしたが、他の音楽は無料で聴けました。確かに演奏家の著作隣接権は保護期間にはありません。ただし、これはレーベルの著作隣接権があります。クラマネというアプリは、そこをごまかして、本来、有料である音楽を無料で配っていたことになります。どこかのレコード会社から訴えられでもしたのでしょう、いまではそのアプリで音楽を聴くことはできません。なにごとも有料なのだなあと、自営業をやるようになったいま、感じることです。

それにしても、このCDも充分にもとを取ったと言えるでしょう。大好きなCDです。

最後に記事をはって終わりにしますね。来週、また仲間のオケを招待券で聴きに行きます。これが直近で聴いた演奏会となります。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。これで本日のオタク話はおしまいです。さっきQuoraに書いた記事がけっこう高評価を集めているのと、それから本日は午後6時半に新しい記事が予約投稿されます。そちらもよろしければどうぞ。無理強いはいたしませんが…。(本日は夕方まで仕事がないので、こんなのばかり書いています。失礼いたしました。)

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