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メモを取るな!

 こちらへ来て、読む本がないため、YouTubeばかり見ております。発達障害グレーゾーンの話題の番組をやっていました。発達障害グレーゾーンとは、その障害特性の程度が、診断がおりるほど著しくはないものの、じゅうぶん困っている人のことです。これも、なかなかつらいことだと言えます。そこには、発達障害グレーゾーンの男性が出て来ました。仮に「山田さん」としましょう。山田さんは、あちこちの会社に勤めては、辞めさせられたりしています。ある会社での出来事です。4コマ漫画のようになっていました。山田さんは、上司から指示を受けます。おそらくワーキングメモリが小さくて、覚えきれない山田さんは、メモを取り始めました。そのうち(3コマ目で)上司は「メモを取るな!」と叱ります。結局、山田さんは、メモを取ることを禁じられたので、指示を覚えきれず、指示通りに働くことができず、その会社を辞めさせられました。

 この一連の話を聞いていた、スタジオの多くの人は、3コマ目の「メモを取るな!」と上司が言う場面で、一様に驚愕していました。顔をしかめるコメンテーターも少なくなく、「そんな会社、こっちから辞めてしまえ!」という(無責任な)ことを言う人もいました。

 しかし、よく考えてみましょう。これは、山田さんから見た状況です。みなさん、自然に山田さんの味方をしながらこの4コマ漫画を見ているのです。それはどのような状況でしょうか。山田さんが自分の部下だったらどうでしょうか?すごくトロいことで、いちいちメモを取る部下が実際にいたら、どうするか?もう、いらいらして、思わず「メモを取るな!」と言いたくなるのではないでしょうか。その場で、顔をしかめたコメンテーターや、「そんな会社、こっちから辞めてしまえ!」と無責任なことを言った人も、実際に部下に山田さんがいたら、「メモを取るな!」と言っているのではないでしょうか?この番組を見ていた多くの人、知らず知らずのうちに山田さんの味方をしていた多くの視聴者も、この3コマ目で「え?なんて理不尽な」と思ったでしょうが、いざ自分がその上司の立場だったらわかりませんよ。山田さんに「メモを取るな!」と言っている可能性は大きくあります。

 私は、そういう経験をたくさんして来ています。私の受けた理不尽な仕打ちをいちいち挙げていたら、みなさんびっくりなさるでしょう。でも、そういう「理不尽な仕打ち」という言いかた自体が、私から見た言いかたなので、それをするほうは、そんなつもりはないのです。これは、グレーゾーンに限らず、私のようにれっきとした発達障害の診断がくだっていても同様です。これで急に理解が得られるわけではありません。そして、その「メモを取るな!」と言った上司は、まともなことを言っている可能性が高いのです。周囲の人も、山田さんは徹底的にデキない人だと見ています。じっさい山田さんはデキない人なのです。そのくらいの叱責を受けるのは当然なのです。それが社会です。

 ですから、皆さん、こういう番組を見たら要注意ですよ。テレビ番組って、単純化するために、しばしば一面的になるのです。その偉そうなコメンテーターも気づいていまい。自分も「メモを取るな!」と言っている可能性が高いこと。そして、「そんな会社、こっちから辞めてしまえ!」と思わず言った人も、辞めたら山田さんはますます困ることを考えていない。まあ結局、山田さんは辞めさせられてしまうわけですが、困ったものですね、正義漢というものは。(オレもコメンテーター風)

※2021年8月7日の付記です。ゆうべ、YouTubeを見ていて、そのコメンテーターが誰だかわかりました。乙武洋匡さんでした。

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