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君の目猫の目

「A型みたいに普通になりたい、A型になりたかった。なんて散々言ってきましたけれど、私の思う真の変人はA型の人間です。彼らは色々とお上手よ。上手と言うのは自分を隠すのがこの上なくウマイということ。見た目には出さない自分の変わった部分を腹の底に心底隠している。絶対に見せないの、自分の本性を。特に深く関わろうと思っていない人間には絶対に見せない。大事な者にしかそれを見せびらかさないの。いいわね、羨ましいったらないわ。私なんか口を開けば自分のことばかりで、周りが私のことを知りたいなんて一言も言ってはないのに自分のことばかり話したがるものね。お口じゃなくて股が柔らかければ良かったのにな、なんて結構本気で思っているのよ?口が柔らかくたって意味が無いじゃない、口の柔らかい人間は口が大きいもの、たくさんの秘密を閉ざそうと心掛けたってきっと隙間からポロポロと、食事のヘタな子供がご飯を口から零すように自分の秘密を至る所に落としていくわ。そのくせ私の知っているA型の女の子たちはそうじゃないものね、完璧主義よ、本当に。秘密は絶対に零さない。けれど、好きになった男の子たちにはちゃんと、自分の大事な部分を見せびらかすわ。見せつけられた男の子たちはまんまと騙されちゃって、「俺、信用されてる、あの子が俺に秘密を見せてくれた」何て、心を奪われてその子のことばかり考えてしまうのでしょうね。そういうところが品があっていいわね、なんて思うのよ。けれどね、それはA型の女の子だけではないわ。A型の男の子だってそうなんだから。私はたくさんのA型の男の子に騙されてきたの。あの子達も品があるものね、やっぱり秘密は心に留めておくのよ。それでもって、こちらに隙ができたり、タイミングをよくお読みになって、ここぞというときに自分のことをこちらに丁寧に一つずつ教えてくれるのよ。丁寧に、ゆっくり、一つずつ。そして私はそこに惹かれてしまうの。いっぺんに自分のことを見せびらかさないイヤラシイところに。それは多分こちらの心と頭にジワジワとじっくり近寄ってきて奪っていく作戦なのかもしれませんね。彼らはきっと体を交わせるのもお上手なのかもしれません。私はそんなA型の人間と目を合わせるのが得意ではありませんわ。彼らまたは彼女たちの目を見つめると、黒猫と目を合わせたときの嫌な緊張感と少しの恐怖を感じるもの。絶対に懐いてはくれない、自分のことも安易に話さない。だから何を考えているのかわからない。だから私は目を合わせていないフリをして彼らの前からゆっくり後退りをして立ち去るの。」

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