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里山における人間と動植物の共生について


 人間と動植物の共生については、広義における保全(Conservation)の、厳正保護(Strict Protection)など植生遷移段階と自然保護4手法がある。保全だけでなく、屋久杉のように再生不可能な対象への保護も必要であり、一度破壊された環境の回復のために土壌シードバンクの活用のような再生・復元させることも必要であろう。
里山と密接に関係するのは、狭義での保全(Conservation)であるが、水田耕作に代表されるような自然環境を利用してきた生産緑地、水田、小川、雑木林、茅場、牧草地が含まれる。植物群落の途中であるが人為的な管理を行わないと他の植物に変わってしまう。九州の阿蘇山や久住山の一帯にあるネザサは、肉牛の放牧によって成り立って来た。草原の草に牛や馬の放牧などの牧畜を行って、その糞を田畑の耕地の地力に利用し、そこで生産された植物もまた牛や馬の冬季の食物や敷き藁となるような干し草の生産につながり、さらに田畑への肥料にもなる、このような循環システムが構築されてきた。野焼きによって途中層を維持し、持続的な草地管理を行い、自然環境を保全してきた。

繰り返しになるが、この遷移の途中層での人為による保全が必要である。それは、生態的な容量の範囲のなかでの持続的な土地利用に有効だ。生産活動のために利用するものであるが、生物資源・土壌・水資源も枯渇しない範囲で行うことで、資源を守ることにつながる。また、場合によっては、再生・復元することも必要である。生態系の環境基質である土壌・水資源を在来のものに復元し、そのうえで過去に生息・生育していた在来生物相の再生にも繋がる。


 日本では弥生時代頃からずっと稲作を中心に水田を囲む様々な資源(水、土壌、生物)を枯渇しないよう代々引き継がれて維持してきた。つまり、生態的な容量(Ecological Capacity)の範囲内で緑地を利用し、持続的土地利用をしてきたのだ。人為が過ぎると都市化が進むが、原生環境から二次林、農耕地までの間の遷移の途中層のなかの生物資源の可逆の範囲内、つまり、生態的な容量の範囲内において持続的な土地利用を繰り返してきた。
具体的な保全方法は2種類あり、ひとつは、山谷邑をセットで守ること、もうひとつは、伝統的な農村管理手法で守る、ことである。


 里山の構成要素は、二次林、水田、ため池と水路、牧草地と採草地を含むもので、里山生物は、その利用と管理に生態が合致して個体群を安定させて来た生物である。日本人は、「山谷邑」といわれる伝統的農業システムを利用して、安定的に生業(稲作)を営んできた。谷には川が流れ、水田や畦をつくり稲作を中心に定住生活を繰り返して来た、その水源は山である。山は、薪炭林として燃料や建築材や山菜の供給や防風林として機能したり、落ち葉は谷にある水田の栄養分となり、山から谷に流れる水は集落の邑で生活用水や水田に利用されてきた。人為による途中層の遷移段階で共生できる生物にとっても好都合な環境を形成してきた。


里山林では集落と共生してきた。林の木材は囲炉裏や風呂、養蚕や木材の販売による収入にもつながっていた。それは長いサイクルの中で更新されていくものである。里山林の中には竹林があるが、食用にしたり加工したりして生活に利用してきた。自然な間引きを行うことで共生をしてきた。カヤバからは、日本の伝統行事に使うもの正月の門松に使う松や竹、十五夜のススキなど、も利用されてきた。
 二次林、里山林を保全していく際の方向性としては、各地域の里山管理を調査し、その知恵・手法を生かすこともひとつの方向性として重要だ。薪炭林として活用しなくなった現代においては、その土地を環境教育に利用し薪炭林を管理したり、市民のレクリエーションやボランティア活動の場所として管理するなど新しい取り組みが始められている。


 イネ科のカヤがあるが、屋根を拭いたり、炭俵の紐にしたり人間は利用してきた。そこの茅場に生息するカヤネズミは雑食性であり、バッタやイナゴなどを捕食し稲作にとって有効であり人間と共生してきた。植物遷移が進むと生息困難となってしまう。
 トンボ類の例でみると、それらが生息している多様な里山立地を守ることで、その立地に生息する多様なトンボの種の出現の循環を維持することにつながる。日本の里山の地形の多様な水系(流水性・止水性)に多くの生物種を見ることができる。単にため池があれば生息するのでなく、周辺の立地の多様性があってはじめて生息できる。浮揚植物、水中植物、休耕田、ヨシ帯など様々な里山の立地を保全していくことが大事である。アキアカネは一年を通して水田と山を移動しながらその生息を維持している。一方、農薬によりアキアカネとノシメトンボの個体数の減少が見られている。
 アカガエルなどカエルの生態も同じことが見られる。アカガエルは、水田と林、水田と草地(萱場)のセットが生息に必要である。
稲作および休耕の期間を含めた一年を通して、カエルの生態は農作業の年間スケジュールと密接に関わっている。産卵は水田で、その後里山林や草地をセットで利用し、浅い水域と陸域での相互の環境がモザイク状に連続して配置されているコリドーで繋がっているコンディションが必要である。そのカエルを捕食するヤマカガシなどのヘビも水田や小川の近くに生息し、里山林や茅場も生息に必要な環境であることから、特定の立地を守るだけではなく、必要となる里山の構造を複合的に捉えないと保全はうまくいかない。
ヤマカガシの持つ毒は餌のヒキガエルから取得して生成している関係も見られる。
 河川・水田・干潟・畑でみられるサギもそれぞれの多様な立地にあった捕食関係をもっている。また、サギ類は林に集団の繁殖地(コロニー)をつくっている。また、フクロウの主食はネズミがあるが、害虫であるネズミの駆除のために農村生活にフクロウと共存する例もみられる。タカ類では、ヨシ原を主な生息地としているチュウヒだが、都市開発によって減少している。同じタカ類の絶滅危惧種であるサシバは林縁の針葉樹を中心に日本横断だけでなく海外にまで渡りながら生息し、水田に生息しているカエルだけでなく、その行動圏内で多様な環境と多様な資源を季節に応じて捕食・利用して生息している。そのため、特定の場での保全でなく、複合的な立地での保全が必要になってくる。
 里山魚類は、湧水、水田、溜池・沼、河川などに生息するものだが、河川と水田でセットで生息していたナマズやドジョウ類などの種は小溝のコンクリート化やパイプ化が大きな妨げとなり、産卵のための水田へ移動ができなくなったことや、田植え前の植物プランクトンの現存量増やその後の動物プランクトン増加による水田からつながる生物の重要な栄養供給源に対しても、前述の妨げにより、その個体数を減少させていることの要因となっている。そのため、里山魚類の保全については、生物が自由往来できる段差の解消や自然岸、底質の形態の改善を行う保全が必要になる。
 水生ホタル類も、里山の立地の多様性とその伝統的な管理方法が保全には必要である。ゲンジボタル(流水性)は用水路などで蛹化と幼虫まで、ヘイケボタル(止水性)は水田で幼虫となり畔で蛹化となり生育するが、成虫では水田で飛翔し、斜面林が繁殖に必要になる。水生のホタルの生息には、里山管理が必須となっている。水路掃除は田の効率化だけなく、水生ホタルに対して安定した生息環境を整えている。また、里山林の定期的な伐採により、水田面を飛ぶ空間の確保や稲の間隔的に植栽することは、稲に留まっているオスとメスの視認性向上にもつながっている。里山管理を放棄してしまうと、水路への栄養不足や水質の変化、湿地の乾燥化などにより、ホタルを含む里山生物にとって生息しにくい環境となってしまう。そして、人為的なホタルの減少には、里山林の減少、農薬の散布、コンクリート護岸などが考えられる。

里山における人間と動生物とのあるべき共生とは
 里山における人間と動生物とのあるべき共生とは、人にとって安全・安心な生産品の供給であり、それが里山に生息する動植物の保護にもつながり、そのことが人間にとって里山文化を残すことにつながっていくことである。この生活や文化も含めた人間主体的な対象こそが里山景観を保全する、ということにつながっていく、いうことがいえる。
 里山においての保全とは、特定の立地を守るだけではなく、必要となる里山の構造を複合的に捉えないと保全はうまくいかない。生態的な容量の範囲内において持続的な土地利用を繰り返しながら放棄せず保全を行い、そこに生息する動植物との共存から互いに浸透的にまじわれる共生の関係をつくり、そこに人間の文化が存在していく、そのような保全が人間と動植物の保全に必要になると考える。

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