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【映画紹介】第3回『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

1.Prologue
 当初の公開予定日だった2020年4月から1年半。3度の延期を経て、ついに2021年10月1日に公開開始。筆者は台風にチキって10月2日に視聴しました。まあ、そんなことはどうでも良いのです。劇場で「What took you so long?」と呟いてニヤニヤしていたくらいには、テンションがぶっ壊れていました(ただの変質者)。


 と前置きはこのくらいにして、本題に入りましょう。まずはキャストから。
 主人公、ジェームズ・ボンド役はスッカリお馴染みのダニエル・クレイグ。今作でボンド役は卒業と明言しており、ファンとして惜しむ気持ちはありますが、「『カジノ・ロワイヤル』から15年もやっているんですよ」と言われちゃ「お疲れ様でした」としか言えませんはな。


 ……で、本当に最後なの? 本当に本当? そうですか。ぐぬぬ(血涙)。


 はい、ええと。続いてヒロインは、前作に続いてレア・セドゥ扮するマドレーヌ・スワン。彼女、結構やる時はやるキャラなんですが、それが凄くハマってて「何でかなぁ」と思ってたんですが、最近やっと原因が分かりました。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』で殺し屋役をやってたんですね。道理で様になる訳だ。印象には残ってたんだけど、同じ演者さんって気が付かなかったってパターンです。役者さん、凄い。


 そして、今作のワルの親玉、リュートシファー・サフィン役がラミ・マレック。記憶に新しい作品だと、『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ・マーキュリー役。個人的には、『ナイトミュージアム』のアクメンラーが最初に浮かびます。あれははまり役だなと思ってたら、ご当人がエジプトにルーツを持っていると聞いて納得した記憶。今回は細菌兵器で地球上の人類を掃除しようとする、ボンド映画らしい(?)悪役を演じています。


2.Outline
 本編がべらぼうに長いので、今回は公式ページのあらすじを引用します。ゆるして。

 Quote
 ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。
 Unquote

     ※以下、ネタバレ要素を含みます。

3.Sentiments
 本作、何から話すか考えるとちょい困るんですよね。なんせ上映時間が2時間43分と、歴代最長の作品です。ここは取り敢えず、優先度とか興奮具合とかは脇に置いといて、時系列順に語っていきたいと思います。

 まず、冒頭の回想シーンですね。マドレーヌの幼少期の記憶。


 「レア・セドゥによく似た子役見つけてきたなぁ」と思いながら観ていると、洗面台の下にあるものが映ります。そう、漂白剤とかウエスとか家庭的な物品に混じって黒光りするベレッタが一挺。前作『007/スペクター』で、マドレーヌが語っていた通りですね。「ある男が父を殺しに家にやって来た。彼は私がベッドルームで遊んでいるのを知らなかった。あるいは父が、漂白剤と一緒に9ミリのベレッタを洗面台の下に隠していたことを、かしら。だから、私は銃が嫌いなの」――この台詞を思い出せば、この後の展開は読めます(予告編でバレバレだろ、とか言わない)。


 ミスター・ホワイトを殺しに、サフィンがやって来る訳ですね。眉無しの小面みたい能面を着けて。
 ガラス越しにぼうっと立っている様はホラー映画のそれなんですが(実際、それを狙っての演出だったそうで)、正直、「お前それ、お目当てのホワイト氏がいたら蜂の巣にされてたぞ」「あんな視界のひらけた所を通って来たら、家に着く前に『第五部、完!』されるぞ」とか思ってたのは秘密です。秘密。


 というか案の定、侵入前にマドレーヌに気付かれてしまいました。そして、ベッドルームでベレッタでBANG☆BANG☆。1階に転落して、気絶してしまいます。言わんこっちゃねえ!


 後は概ね、予告編で観た通りですね。逃げる途中でマドレーヌは氷を踏み抜き、池の中に落ちてしまう。そこへ追いついたサフィンは小銃を連射して、溺れかけていたマドレーヌを氷上に救い出す。その時、サフィンは怯えるマドレーヌに自分に近いものを感じていた、と。そんな流れ。


 氷の池で藻掻くマドレーヌを見て、スカイフォールの終盤を思い出した人もいるんじゃないでしょうか。あの状況でボンドは自力で脱出していましたが、幼いマドレーヌに同じ芸当ができるはずもなく、結局は自分を殺そうとしていた相手に救出された訳ですが、ここで注目したいのは場面の切り替わり方です。


 ぼくの記憶が正しければ、マドレーヌが氷上に上がったシーンは描かれていなかったんですね。回想のラストで、彼女がいたのは水の中。“I got into some deep water.深みにはまっていた”な状態な訳です。現在進行形で過去に囚われているマドレーヌだからこそ、氷上にいるシーンが無かったのではないか、と考えてしまうのはぼくだけでしょうか。嘘でも良いので、君だけじゃないよと言ってもらいたい所です。はい、次に行きます。


 次は、回想明けのドライブシーンですね。今まで散々ぱら追って追われてをやっていたボンドが、穏やかにDB5を転がして「急ぐ必要はない」とマドレーヌに言っている様を見ると、中々に感慨深いものがあります。後にドンパチで中破するけど。ミニガンとか、小型爆弾とか明らかに殺る気満々の装備がてんこ盛りだけど。とりあえず、ボンドカーが男の子していたのでぼくは満足です。これでいいのだ。


 やはり、ボンドにはドンパチが似合います。マドレーヌと仲良く穏やかに年を取ってくれよ、と思う一方で、どうしても観光名所で大立ち回りしているボンドの姿が見たくなる。彼らはお似合いのカップルだけど、それと同じかそれ以上にボンドにはワルサーが似合ってしまうのです。悲しいほどに。
 これが本シリーズのテーマの一つなんじゃないか、と小生は思っております。


 幼い頃に両親と里親を喪い、スパイになってからは恋人や上司、友人をなくし、失い続ける人生を歩みながらも闘う姿勢を貫き続けたボンド。その不屈さと悲哀が描かれてきた物語。それがクレイグ版ボンドだ、と思います。実に良いシリーズだった。それこそ、もう一作やってもらいたいくらいに。やって?


 似た境遇のサフィンとボンドが、全く違うものを後生に遺そうとしていたのもニクい構図でした。


 サフィンは、人類を虐殺する細菌兵器を。
 ボンドは、恋人との間に生まれた子供を。


 何を残すかが重要だ、と説いたのは他ならぬ敵役のサフィンでしたが、結果を見てみればボンドの完勝でした。人を殺し続けてきた果てに、サフィンは殺戮兵器を手にし、ボンドは守るべき家族を得た。二人は死んで、残ったのはボンドの血を継いだマチルド――明暗を分けたとはこのことです。


 欲を言えば、ぼくは彼ら家族の団欒をもっと楽しみたかったし、マチルドに振り回され気味なボンドを拝みたかった。たぶんワルサーほど似合わないんだろうけど、その「似合わなさ」を堪能したかったんだ。それなのにサフィンこんにゃろう、というのが最終的にぼくが頂いた感想でした。
 男心は複雑なのでございます。今回はこんなところで。


4.Tips
 ・パロマちゃん可愛いので、もっと出番ください。外伝でも良いぞ。
 ・ノーミは予告だと当たりキツい印象だったけど、蓋開けてみたら普通に良い人だった。
 ・「フィリックスご無沙汰じゃ~ん。元気してた?」と思ってたら死んでしまった。死なすことはありませんでしたな、総帥。
 ・細菌兵器――というか殺人ナノマシンの「ヘラクレス」。お前、フォックス・ダイ……じゃない?
 ・潜水機能付きのパラグライダーとか、磁力で落下速度軽減するアイテムとか小物が格好良かった。実在するのかしら、と気になったり。
 ・森でゲリラ戦やっているシーンはランボー味がして良かった。ああいうテクいのに弱いのです。
 ・「枯山水のド真ん中に池を設けるのはやめようや、笑ってしまうわ」となったが、ぼくはこういうエセジャパン像は嫌いじゃない。『ジョン・ウィック/パラベラム』の屋台寿司屋でニヤニヤする手合いなので(笑)
                                               以上

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