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その店は半年に一度、生まれ変わる。

その店は半年に一度、生まれ変わる。

壁一面に描かれた絵は新たに画家が描き
インテリア兼商品も新たにキュレーション。
写真家は新しいメニュー写真を撮影。
BGMの選曲はあのアーティストに。

表現者達がその時々に集まり、壊し作り変える「その時」を楽しむ店

「Time Flies」



以下、セルフライナーノーツ。


銭湯はお好きだろうか?

私の祖父母は銭湯をやっていた。
だから私にとっては幼い頃から「銭湯=おじいちゃんち」。大きな湯舟に浸かるのは大好きだった。

その風呂場の壁には、大きな富士と松島が描かれていた。

確か松島だったと思う。
多分。そんな気がする。

今書きながら思ったけれど、普通は男湯女湯両方の壁の絵を見ることはできないのか。

一応書き加えておくと、営業時間前に湯舟で遊ばせてもらっていたのだ
決してやましいことをしていたわけではない。

なんのは話だっけ。

そうそう、その風呂場の壁の絵は、数年に一度のペースで描き直される。
毎日長時間湯気に晒されているから、ペンキの劣化が早いらしい。
描き直す時は店を閉め、1日かけて描くのだそうだ。

正直、その描き直しに立ち会った記憶は無い。
多分立ち会っていない。

けれども、富士と空と海の青色は今でも脳裏に焼き付いている。

銭湯の絵はそれほどまでに記憶に残る店の「印象そのもの」だ。

今振り返ると、絵を描き直すことは、長くその場所にあり続ける銭湯にとって、空気の入れ替えのような、その場所のリフレッシュ、新陳代謝のようなものだったのではないかと思う。


飲食店ってやつはものすごく新陳代謝がいい。

なんせ日本には四季に加えてバレンタインやホワイトデー、母の日父の日敬老の日七夕ハロウィンクリスマスお正月最近はイースターなど、宗教も文化も飛び越えたイベントが目白押しで、その度に限定メニューをリリースしたりしなかったりしている。

人材面からも、飲食店の営業を支えてくれている学生アルバイトの方々は3年、ないし4年程でお店を卒業、そして毎年新しい学生アルバイトの方が入ってくれる。

そもそも、5年後にその店が存在しているかどうかも怪しい。

そういう意味で、1年単位、3年単位、5年単位で見れば、飲食店の中身は殆ど別物になっているとも言える。

そして、それは概ねどの飲食店に言えることなのだ。

ただ、その代謝はお店の中身に関してのみだ。

パソコンで言ったらソフトウェアの部分。
ハードウェア、つまりお客様から見えるお店の「ハコ」の部分での代謝は少ない。

それならば銭湯のように壁の絵を描き、それを描き直したら、そのたびに店はリフレッシュするのではないだろうか。

お客様はその絵を楽しみ来るというよりは、変化したことを楽しみにくるというような。

いっそのこと、インテリアやメニュー写真、BGM、お客様から見える「ハコ」の部分全てをリフレッシュしてみたら面白そうだ。

それらは全て店が発注するというよりも、得意な人が集まってカフェというカンバスを遊ぶ。

店が店をつくるのではなく、店を基点にその都度曖昧に集まったメンバーが、店を一緒に作り上げるイメージ。

つまり、例えば今回は「春」をテーマに絵を描いたり写真を撮ったりインテリアを変えたりBGMを選曲したり、例えば次回は「星新一のショートショートが好き」という点が一致した表現者が集まって絵を描いたり写真を撮ったりインテリアを変えたりBGMを選曲する。

昔エアでつくった「珈琲結社」のイメージと近い。

半年ごとに集まり、壊してつくり直し、また半年後、もしかしたら違うメンバーで集まり、また壊してつくる。

店の新陳代謝が極端に見えるような、いわば半年に1回リニューアルをしているようなもの。

でも外側の部分が変わっているだけだから、営業のオペレーションはそんなに変わらない筈。

っていうか、っていうかさ、

この店の壁に好きな絵描いていいよ!あとでメニュー写真もインテリアもBGMも全部変わるから

って言われたら、すごくワクワクしない?

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