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【薄桃色にこんがらがって】少年少女を捨てられない私たち④最終【ネタバレ感想/妄想解釈】

※2020年4月よりシャニマスを始めた新参者です。そのためキャラやコミュ解釈等が間違っている可能性があります。初心者の新鮮な感想を認めておく意味でのnoteです。読むのは二回目です。散文、個人の解釈です。
※ネタバレ感想
※かなり長くなりそうなので連載方式にしています。投稿後加筆修正がされる可能性が高いです。

【薄桃色にこんがらがって】少年少女を捨てられない私たち③【ネタバレ感想/妄想解釈】の続きです。

6.【薄桃色にこんがらがって】/どちらも本心ならば


「──甘奈ね、いっぱい考えたの 甘奈、千雪さんを応援したい……!」

 そんな言葉から始まる。
 このコミュタイトルは表題。つまり、このコミュは最も制作者にとってやりたかったこと、伝えたかったことになるだろう。

「『アプリコット』にぴったりなの、やっぱり千雪さんなんだもん……!」
「甘奈、それがわかってるのに──」
「オーディションで、どうやって頑張ったらいいのか、わからないよ……っ」

 しかし、その言葉をきいて、千雪はエントリーを取りやめることを伝える。

「甘奈ちゃんがグランプリになるってどこかで信じ込んでて……」

 千雪は自分のこんがらがった想いを清算するために、甘奈の胸を借りようとしていたのだ。その甘奈が自分のために参加を取りやめるのなら、千雪は迷惑をかけてまで参加する必要性を感じないだろう。彼女はそこまで自分勝手ではなく、そして、他人の優しさを自分のせいだと自責してしまう人間だ。
「負けたときがこわい」その言葉を思い出す甘奈。この関係を壊さないためには、きっとどちらも参加しない方が幸せだと、理解している。彼女にとって「変わらない」ことが、「今」が一番大切なのだから。

 二人の想いを聞いても、変わらない事実がある。それをPは突き付けた。
 甘奈のグランプリの内定。
 甘奈はそれをきいて「ずるい」と言いかけるが、Pは遮る。

「ずるい……というのは、ちょっとあてはまらないな」
「俺も、こういうやり方は好きじゃないよ でも……」
「編集部や企画本部は、はっきりとしたビジョンを持って甘奈を起用したいと考えてるんだ」

 これは今まで甘奈が活動してきた結果。そう伝えるP。
 ここでどうあがいても、結末は変わらないことをはっきりと伝えるPが私は好きだ。その上で、オーディションを辞退するかしないか甘奈の意見を尊重するPの姿勢は、Pとして今できる最大限の行動だろう。

 企画側の思い、復刊で売れなければならないという使命、確実に注目を浴びるための戦略。私はこれらを否定することができない。
 私は一創作者として、そういった試みを理解できてしまう。
「どれだけ良いものを作ったとしても、見てもらえるかは別」
 私は日ごろからそう思っているし、シャニマスも似たことを提示することがある。これは他コミュの内容に触れるため、深くは語らないが、シャニマスは「良いものを作れば、必ず一目置かれる」という幻想を肯定しない。
 どれだけ才能のある人間もその才能を外に出さなければ、それは世界にとってなかったものと同等なのだと、私は思う。
 だから「ストーリー・ストーリー」や「天塵」の芸能業界の動きの全てを否定することが私には決してできないのだ。
 だからこそ、私はこのシャニマスの芸能業界の描き方がリアリティがあって好きなのだと思う。世界は決してアイドル達ためだけに回っていないのだ。

 話を戻そう。Pは三人がすごく悩んだことを理解している、その上で決断を迫らなくてはならない。
 甘奈が他者の迷惑を考えないうえで、一番大事なことを選ぶこと。
 千雪がグランプリを取れないという前提で、出場する意味があるのか。
 また甜花はそんな二人をみて、二人にどう接するべきなのか。

『3人揃ったら、最強の声だねっ!』
「……声 ううん……聞こえないよ────」
「出てないみたい……」

 千雪はわからなくなっていた。甘奈が言ったことが本心なのか、そして自分がどうしたらいいのか、暗闇の中にいた。

「……あー────」

 一人の声しか、聞こえない。思い出しても、わからない。

「……あーー──────」

 諦めたように、泣きたくなるような言葉にならない声をだして。
 私はここの声の出し方がとても好きだ。「あーーー」という発声だけで彼女のどうしようもない気持ち、溢れ出して止まらない苦しみが表現されているようで、それはとても胸を締め付けた。

 そんなとき、甘奈たちが千雪に気が付く。千雪はごまかすように発声練習をしていたという。それに乗っかるように甜花も発声練習をする。しかし、甘奈は声を出せない。

「……ご、ごめん 甘奈もちょっと、出ないみたい……声」

 甘奈のその言葉を聞いて、千雪は気が付いたのだろう。
 迷っているのは、声を出せないのは自分だけじゃない。

「……ううん 出していいの」

 甘奈はもっと我儘になっていい。そして、それはきっと、自分も。
 だから彼女は提案する。本心を言葉にすることが怖い自分達が、明確に言葉にせずに本心を相手に伝えるための、ごっこ遊び。

「……ね」
「反対ごっこ……しよっか」

 戸惑う二人に彼女は先導する。

「甘奈ちゃん、オーディション落ちたらいいのにーーーー!」

 それは、普段の千雪では言葉にしないであろう言葉。思いっきり叫ぶ。これは甘奈に声を出していいと、もっと自分勝手になってもいいというお手本だった。

「出していいの、声……!」 

 いつかの反対ごっこと同じように、順番に、一人ずつ。
 声に出しづらそうな妹の姿を見て、甜花は率先して先に出る。

「──ふ……ふたりとも…… オーディション……落ちたら、いいのに……!」
「なーちゃん、負けてもいいよ……!」
「負ければ…… 壊れちゃう、から……! 大事なもの…………!」

 甜花は誰よりも甘奈のそばにいたからわかっていた。甘奈がどれだけ今が壊れるのが怖いか、この関係を心地よいものだと思っているか。だからこそ、外から見える、姉だからこそ見えることを言葉にする。

「…………ち、千雪さん……オーディション……落ちればいいのにーー…………!」

 甘奈は不自然に、出しづらそうに声に出す。
 それに続いて、甜花も二人とも落ちればいいのにと声を出す。
 絶対に、二人が言わないだろうことを、反対ごっこに乗せる。
 それは、千雪に届いた。

「………聞こえた」

 言葉にしなければ、伝わらない。それはシャニマスの根本的な考え方ではないか?と私は思っている。どれだけ仲が良くても、彼女たちは同一人物ではなくて、一心同体ではない。だからお互いの本心や想いの全てをはっきりわからない。
 特にアルストロメリアはお互いを優しく見守るユニットだと思っている。お互いへの負の感情なんてあってはならない、という前提がある子たちなんじゃないかと思っている。
 しかしそれはこの「反対ごっこ」によって覆された。この声は、反対ではあるが、決して本心ではないと言い切ることができないのだ。

「負けたーーーい…………!」
「負けたーーーい…………!」
「ふたりとも……負けてーーーー…………!」

 皆が大事という気持ちとグランプリに勝ちたいという気持ちは共存する。彼女たちはそれを知る。お互いそう思っていることを、知るのだ。

「アルストロメリアなんか、大っ嫌い…………!」
「アルストロメリア、なんか…………一番……大事じゃ、ない…………!」
「アルストロメリアなんか…………」
「大嫌いだし、一番大事じゃない」

 甘奈の気持ちは千雪に伝わった。だから千雪は甘奈の気持ちを代弁する。この反対ごっこはお互い真っ向からぶつかり合うための遊びだったのだ。

「──反対ごっこ終わり」

 千雪は今固まった自分の本心を素直に述べる。

「私……まだ負けたって、思ってないわ」
「グランプリが決まってたとしても、勝負に負けるかどうかはわからないもの」
「だから、一緒に戦わせて」

 甘奈は「やだ……!」と言うのだ。しかし私にとって次の言葉は衝撃だった。

「甘奈、千雪さんと戦いたくない……!」
「──戦いたい……!」

 この二つの正反対の感情が一人の人間の内に存在することをシャニマスは示したのだ。私は一人の人間が確固たる意志や感情を持てるのは稀だと思っている。みんな迷い、自分にとっての正解を探しながら、日々を生きている。自分が間違っているのではないかと不安になることもある。だからこそ、何かをしたい気持ちと何かをしたくない気持ちで行ったり来たりすることがある。このあやふやで危うい思考は、人間らしいものだ。
 そんな人間を私は恐ろしいと思うし、同時に愛している。(それはどちらも本物だ)
 
 甘奈は本心を声に出す。自分が怖かったこと。負けるのも今までの関係が壊れることも。
 しかし、反対ごっこで本心を声に出し合ったことで怖くなくなった。
 だから甘奈は千雪に勝負を申し込む。
 千雪はそれを快諾するのだ。もう、皆の本心が聞こえたから。

 以下、初見の感想


7.【エンドロールは流れない】/春告げ鳥は鳴いた

 甘奈は千雪のアドバイスを聞いて、堂々とした態度で自分の『アプリコット』像を述べる。
 千雪は甘奈の言葉を思い出しながら、『アプリコット』への憧れを語る。

「わかったの 3人でいる……っていうこと」
「いい時だけ一緒なんじゃなくて……そうじゃない時も一緒なんだってこと」

 それが甘奈にとって、そして3人にとって一番大事なことだった。
 甜花も2人が正々堂々と勝負できるために動く。
 自分の観覧席をオーディションの先生に私、厳しく評価をしてもらう。
 それが二人が全力でオーディションに臨める条件だと。
 3人がお互いを想い、オーディションは進んでいった。

「早春、気温11℃、晴れ」
「予感って いつでも柔らかい風の中にある──」

 千雪がグランプリを獲れなかったことが告げられる。
 出られてよかった、と千雪は安堵する。それはあの河川敷で反対ごっこをし、皆で出たほうがいいという予感を掴んだから。

「甘奈たちみんなで獲ったって思えるんだ……」

 甘奈は覚悟を決める。ひとりでは到達できなかったこの思考を胸に。

「ひとりじゃないから」

 冬の寒い時期を乗り越えたら、春がくる。
 いい時じゃない時期を一緒に乗り越えたから、いい時が訪れる。
 3人は確かに新しいステージに一歩足を踏み出したのだ。
 春告げ鳥は春を告げる。

「私たち、新しい季節を」
「迎えるんだなって────」



「──と、スイッチは……ここ……」

 コンサートライトのスイッチを変え、光に喜ぶ千雪と甜花。
 『グランプリ記念ランウェイショー』に出る甘奈を二人で応援しているようだ。
 今の『アプリコット』にぴったりなのは甘奈だと喜ぶ千雪に、甜花はお礼を言う。
 千雪が大事なものを諦めなかったから、今の自分たちがある。そして甜花は千雪に寄り添いたいと願っていた。

「──悔しい……よね……」
「なーちゃんが、グランプリで……嬉しい……」
「千雪さんが……グランプリ、じゃなくて……悔しい…………」

 それは甜花の本心だ。そして彼女は向き合うために、続ける。

「──は、反対ごっこじゃ、なくても……言いたい……」

 もう彼女たちに反対ごっこは必要ない。自分の本心を相手に伝えることは怖いことなんかじゃないとわかった彼女たちにごっこ遊びは必要なくなった。だからこそ、千雪も言うのだ。「悔しい」と。

「ちょっとだけ……肩、貸してね……」

 一番年上でいつも温かく見守っていた千雪が、年下の甜花に弱さを見せられるようになったのは、成長だと言っていいと思う。強いだけが人間ではないのだから。
 オーディションに出てない甜花はだからこそ言えることがたくさんあった。このコミュにおいての甜花のポジションはバランスをとる上で必要なものであったと思うし、「アルストロメリア」が3人である必要性を色濃く印象づけている。

『くやしい! 負けたのくやしいよー!』
「遠慮はしないんだ、もう」
「うん……! 3人で……ライバルだから……!」

 彼女たちはまだ終わりではない。これからも彼女たち3人は続いていく。
 だからこそ「エンドロールは流れない」。


以下、初見の感想


総括・余談


 『反対ごっこ』というものを取り入れ、正の感情負の感情がこんがらがる彼女たちを肯定するこのコミュが私は大好きだ。
 今回2回目の読解だったが、見事に毎回泣いていた。この先の展開や終わりを知っているからこそ泣いたのだろうと思う。
 私は桑山千雪に「少女性」を感じていた。大人の女性らしい柔らかな笑みを浮かべた彼女に違和感を感じていた。それはこの「薄桃色にこんがらがって」ではっきりと提示されることになる。

 「大人」ってなんだろう、と私はいつも考える。
 何をすれば大人で、どこから大人なのか。
 わかりやすいように私たちは「成人」か「未成年」かで区別をつける。しかしそれは危うい大人の区別の仕方のように思う。
 19歳と20歳、たった1年の差に「大人」であるかないかなんて、判断できないだろう。結局自分に責任が持たなければならない年齢になった、という感じなのだろうけれど。

 桑山千雪も、ただの「少女」ではないのだ。「少女性」が孕んでいるとはいえ、彼女はしっかりとしていて、ちゃんと「大人」であることに責任を持っている。しかし「大人」になりきれないこともある。それはきっと何歳になっても人によってはぶつかることなのだろう。

 私は人間に年齢は関係ないと思っている。
 どれだけ年老いても「子ども」らしい人はいるし、どれだけ若くても「大人」らしい人はいる。
 私は成人しているが、自分を「大人」だと思えずにいる。いつまでも少年少女の心を忘れたくないと思っている。それは私の「大人」への恐怖感や価値観にも繋がっているかもしれないが。

 少年少女を捨てられないからこそ、私たちはアイドルマスターシャイニーカラーズにきらめきを感じているのかもしれない。
 アニメ、ゲーム、漫画、なんだっていい。
 それらに対する「好き」な気持ちはきっと純粋な子供心に似ている。

 それならば、少年少女が生きていたっていいと思うのだ。
 私たちは、少年少女を捨てなくたっていいと思うのだ。

 「好き」は私たちを人間らしくし、そして時に成長させる。
 桑山千雪が『アプリコット』を好きだったように、私たちも好きを諦めなくていいと思うのだ。
 「好き」を「好き」と言いたい。 
 そう思う気持ちは、忘れないでいたい。そう思った。



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