月だけ知ってて
わたしが送った
夕暮れのなみだと-15℃のリボン
あなたがわたしに送った
葉脈のため息
月だけ知ってて
「8月の朝
踊るシジミ蝶
季節はずれの春がきらきら
輪を囲んで ああ
まぶしいです」
緑の香り
碧に染まる
二つの石
-山中電車-
がらんがらんの空席が
しばらく目を瞑り
気配を消す
吊り革に体を半分預けて
景色を眺めるあなたと
ドアにもたれながら
通りすぎる屋上を目で追うわたし
5メートルの空白
わたしたちは
その時一緒にいたのだろうか
(屋上見てた?)
(看板みてたよ 屋上?)
(家の隙間ないね)
(暗いけど)
(結構よく見えるね)
(見えないよ )
同じビルの上からいっぺん
落ちる妄想と
窓を曇らせる
13のため息は
お互い
鞄にしまった
月が満ちる頃
あの時しまった物体が
予期しない形に変型し
窓の向こうへ飛び出る
(ああ 行ったのね)
月だけ知ってて
(あなたの物体も出たのね
窓から
だってほら、月に向かって
揺れてるやつ
背中に看板て書いてある
もう片方は屋上の形に見えない?)
(なんか 見覚えある感じだね
なんだっけこれ )
本の中で微笑むあなたの
茶色い目を
人差し指でそっと押さえた
それはまた 本の中で
そっと
おやすみを言って
満ちた月の下
緑の香り
碧に染まる