聴覚過敏とロックダウン

 予期せず、家族みんなのなりわいが自宅になってしまって、外出も控えているから、実質的にセルフロックダウン状態を迎えている。

 実を言うと、「家庭に居ること」はわたしにとってここ数年最もチャレンジングなことの一つだった。いろいろなものがわたしをかき乱すような気がして、落ち着かなさとイライラが募って、最後は子どもの他愛ない言動が引き金になって、もろい堪忍袋の緒がぶつんと切れてしまう、ということがままにあった。

 ここ半年ぐらいで、その原因の一つは聴覚過敏にあるのが分かって、できるだけ調整している。

 換気扇の音が駄目だ。お風呂のやつも、台所のやつも、ついていると頭がかき乱される。お風呂の24時間換気の方はだから、お風呂はもちろんすぐ外にある洗面所に行ったらいつでもすぐストップ。前よりずっと心穏やかに身支度ができるようになった。

 台所の方はガスを付けたらどうしようもない。窓を開けようともしたが、そうすると風でコンロが消えてしまったりするので、よろしくなかった。だから最近ではAir Podsを付けて料理をしたり、そうでなければラジオを付けて(アナログでちょっとザーザーするのがいい)そちらに聴覚の焦点が合うようにしている。

 子どもの見ているテレビの電子音が駄目だ。キャーキャーしてカサカサとしていて、隣の台所にいてもあたまがチカチカしてくる。テレビゲームなんてされると音のまぶしさが倍増して、どうしようもない。これには同じく Air Pods 耳栓かラジオ、それでもままならなかったら「ごめん、わるいけどママ耳が痛くなるから音消してくれる?」と我慢できなくなる前に言う。できるだけ優しく言えるうちに。

 夫のゲーム音はだから死ぬほど駄目だ。夫は腐がつくぐらいの熱さ(溶けるぜ)のゲーマーなので、ジョイスティックとかいうゲームセンターにあるような→↑←↓みたいなコマンドを滑らかに打てるスティック状のコントローラーのついたごつい機体を所有していて、それでカチャカチャカチャカチャ、暇があれがば格ゲーテクニック等の向上にいそしんでいる。そのプラスチックの衝突音といい、格ゲーの殴り合いの電子音といい、わたしにとっては地獄。早めに「ごめん。音消して」と言うが、操作音もあるので物理的な距離を離すしかない。夢は防音室かな…

 独身の頃、井戸水のアパートに住んでいた。そのアパートは大家さんの敷地の中に建っていた。大家さんはその地元の地主さんで、恐らく江戸時代とかまで遡れる位その地域に代々住んでいて、氏子さんとして地域の神社の祭祀に携わってきたようなお家だった。

 敷地内には蔵や竹藪や背の高い木々があり、夜にはその木々に巣くっているいるのか猛禽類の声が聞こえた。ホーホー、に近い声。詳しい知人に訊いたところ、それはアオバズクではないかということだった。夜の井戸水のアパートは、竹のそよぐ音とアオバズクの声でとても素敵だった。春も更けると近くの田んぼから聞こえるカエルの大合唱が私を安心させた。

 ロックダウンしていても人のぬくもりや良い意味での喧噪を感じられる家族という形態をありがたく感じる一方で、わたしは静けさをとても恋しく思う。



 

 

 

投げ銭は、翻訳の糧になります。