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磁気の月のおわりに

この月がもうすぐ廻る
我まことの名を訪ね
この地にこの夜住まうこと
いみじくもくるおしけれ。

知は偽りであった。
知は実ること未だにして非ず
我心許なく里を彷徨すれど
休まるところなくなくにして。

高千穂に降り立ち行脚す
道行けば雨に月明り乏しく
籠りてぞ隣人と相結ぶ縁有難く
椰子の実に揺られ湯屋へ運ばれ来る。

この手足 生きるためにこそ差し出さむ
耕し 口に糊し 清め 住まひ
巡る中で無為は寸分も無く
恍惚として忘我の折々に
明けど暮らせど神を見る。

その口は告げむ まことの名前
叡智 水に宿らむ
叡智 火に宿らむ
大地土に宿らむ

神の子は皆踊る
月夜愛でたけれ
今宵この生を愛でむ
病する気の全うな恩寵もあれ
障り穢れ背う壮大な曼荼羅もあれ

この月がもうすぐ廻る
この子らの気 向くままに育まるよう
この子らの熱 浮かれ飽くるまで守り
月も火も水も味方するよう
相祈願致す。

この名もう誰にも盗れぬ
この名もう誰にも盗れぬ
わが生を引き受けること
もはや惑わすもの無く
晴れはれ渡る月明りの下も
オロチの漆黒の中すらも
夜を徹して
燈明を手に歩まむ。


令和三年八月二十二日
千智

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