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米の花と甘酒経済圏

 生まれて初めて糀から甘酒を作った。

 発酵食品の良さと地域について考えた、というお話です。

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生糀と農協

 「生糀(なまこうじ)」を見つけたのは、地域の農協だった。わたしの棲む茨城県つくば市は、駅の周辺部だけ学園都市としてこの40年ぐらいで整備されてきたが、一歩大通りの外に出ると昔ながらの街道沿いに発展した商店街や、門から玄関まで数メートルの大農家がうねった道沿いにモザイク状に点在する。

 大好きな甘酒作り、いつもは酒粕に手が伸びるところ、ちょっと気になっていた生糀に手を伸ばした。ラベルに(一)塩糀の作り方、(二)味噌の作り方、(三)甘酒の作り方、が簡潔に記されている。

 「…できそうかも。でも結構時間がかかるかな…でも時間はあるな」

 日配品の冷蔵棚の前でひとしきり迷った末に、「時間があるからやってみよう」がとうとう勝利し、他の活きの良い野菜達と一緒に生糀を購入した。

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お米の妖精さん

 モチ米を炊いて、生糀と混ぜて、炊飯器の保温機能を使って発酵させ、数時間して開けてみると、えも言われぬ良い匂いがした。

 米の花と書いて「糀」のとおり、花の蜜ような淡い香り。

 お米の妖精さんが最適な温度環境をもらい、炊飯器の中で人知れず仕事をしてくれた残り香。

 それはわたしをとても幸せな気持ちにした。

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地域の生糀店

 一晩経って、「甘酒の作り方」の最後のプロセスに入る段になって、わからないことが生じた。「その後、器に移し2~3日でおいしい甘酒が出来ます。」器に移して、常温なのだろうか、冷蔵庫なのだろうか――妖精さんの仕事を台無しにしたくなかったので、これは重要だった。

 購入した生糀は、隣の土浦市の糀店のものだったから、まずその糀店の際とがないかインターネットで調べた。特に設けてらっしゃらないようだった。

 ここにきて(やっと)ネット上の「糀からつくる甘酒」レシピを参照するに至り、するともち米を炊く時の「やわらかく」は、水分を含ませるためにお粥状にしなければならなかったこと、などがわかった。

 ラベルに書いてあるようなレシピはネットではなかなか見つからず、「器に移し2、3日」の状態がどうしても判然としなかった。午前10時を回ったので、糀店に電話をかけて「ちょっと教えていただきたいんですけど…」とくだんの疑問点について尋ねた。

 電話に出たおばーちゃんは、「あーそれはね、」と、常温ではなく冷蔵であること、器に移す前に大方の発酵過程は終わっていて、「2、3日」は何と言うか、なじませるプロセスであること、などを親切に教えてくれた。お礼を言って電話を切った。

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甘酒経済圏

 ところで末吉宏臣さんが先日の記事で「小さな経済圏」について書いていました。

 今回出来た「甘酒」――ほんのり甘い、発酵したほろほろのもち米――の甘さを噛みしめながら、わたしは甘酒経済圏ということばを思いました。

 麹菌が(若干の流通の力も借りながら)顔の見える範囲で手渡しできるような地域の中で、生きていたいなあと、思ったのです。

 そもそも今回農協に足を運んだのも、そこで購入できるやはり隣合う桜川市の漬物屋さんの昆布白菜漬け(!)(まじ美味しいの…)が欲しかったからこそ。

 麹菌や乳酸菌の仕事が受け渡せる範囲内で、生活をまとめていくとしっくりくるのかな、と想いを馳せています。


 今回の甘酒の出来は、ヘッダーの画像になっているそのものです^^;。液体の甘酒とは程遠いけれど、家で初めて咲いてくれた可愛い米の花。めんこいめんこい、またおいで♡

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