自閉スペクトラムグレーのわたしが『タイムウォーリアー』を翻訳する理由

時間はいつも私を追い立てる教官だった。こうしなさい、ああしなさい、遅れると人に迷惑だよと、生まれつきゆっくりのわたしにそのままじゃだめだとけしかけた。

それが時間どろぼうの仕業で、そいつらに搾取されやすい人のグループがこの社会にはぜったいに、いる。そんなことに気づいた経緯を振り返りながら、どうして私が『タイムウォーリアー』を日本で出版したいのか、を紐解いてみたい。

自閉スペクトラムの友人

23歳、霞ケ浦湖畔の潮来(いたこ)で開催された学生サミットでイラン系オーストリア人の友人ができた。上空を通る飛行機の音で機体番号が分かる、わたしと違った尖り方をしている、でも自閉スペクトラム濃いめの同族の友人だ。

わたしが手紙を書くことに、ヨーロッパでいち早く身の回りの紙が隅々まで電子化されていた彼は感激して、返事を逐一返してくれた。往復した書簡は数通になる。その中の一つに、彼が書いてくれた一文がある。

".... , as time becomes your friend."

「...」にしている主節の文はそらんじられないのだが、後半「~するにつれて」の従属節の部分に、わたしはぽかんとした。

「時が友人になるにしたがって。」

――時とは、老いた馬車にすら鞭打つ無慈悲な御者ではなかったか。
――時とは、友人となり得るものなのか――!?

TIME WARRIOR

それから10年余り経ち、私は「TIME WARRIOR」という本と出会った。時間に対する見方が、180度変わった。

自分を追い立てるものと思っていた時間は、時間そのものが追い立てる意思を持っているものなのではない。「時間にはこういう風に合わせなくちゃいけない」、もっと言うと「他人を軸に(迷惑をかけないことを第一に)時間を使って然るべきだ」という、私の中にある固定観念が、「時間に自分を追い立てるのを許している」に過ぎないのだ。

「TIME WARRIOR」は、それを気づかせ、取り払うための「意識のスイッチ」を切り替えてくれる力を持った、本だった。

現代の求めるスピードとのミスマッチに本人が気づいて解消するための、ツール

要は、現代のメジャーな時間のスピードと、自分の本来のスピードのミスマッチが起こした悲劇を、私はいつも抱えて歩いていた。「追いつきたい」「追いつけない」「無理をしても追いつこうとする」――結果、からだと精神を何度も壊した。――もう、さんざん、たーくさんだ!

そういう思いをしているであろう日本語話者の同胞たちに、タイムウォーリアーを読んでもらいたいと思った。感覚が鋭敏だったり、処理速度やワーキングメモリが他の尖った能力を「人並みの」速度を求められては発揮できず、もどかしく悔しい思いをしているのに、それがどうしてなのか、どうしていいのかわからずに、時間どろぼうのするがままに、時間を他人に譲ってしまわざるを得ないで生きてきた、あなたに。

版権を取った経緯と、シノプシスという障壁

翻訳出版などしたことがなかったから、Facebookでつながっている友人等々に片っ端から声をかけ、出版社を探した。自費出版になるので数百万かかりますよ、というもの等、なんだか思うものが見つからずにいた。

そうこうしているうちに、ダメ元でコンタクトを取っていた原書の出版社から返事がきて、版権を個人で取ることができた。

そのころ、シノプシスを送っていただければ、所定の部署に持っていくことはできますよ、というコンタクトが、一つの出版社から見つかった。シノプシスとはレジュメとも呼ばれ、本の要約と原書の基礎情報を短くまとめたものだ。

よっしゃ、それを作れば!と思い立って一年。

途中、わたしのコンディションが悪化したことも大きな要因ではあるけれど、要約がわたしの最も苦手とするものの一つであることが、たぶん、大きな要因だ。エントロピーに従順な私のこの、不得手ニッチゾーンは、悉く、悉皆調査ぐらいことごとく、苦手で心理的に避けたいのだ。

2021年・夏・翻訳

翻訳出版を夢見て、版権を取ってから一年と三か月。

ここ半年は、父母会とPTAで本当に、それどころではなかった。

それがようやくひと波落ち着き、いや次の波も見えなくはないが大波が肩の向こうへと引き潮になり、ようやくやくやく、翻訳ができそうなのだ。

きっと、翻訳を粛々と進めるのは大好きな作業だけれど、シノプシスはあわわわ…の作業。(翻訳者はシノプシスを作れないとだめだとも聞いたけれど、これは、外注案件では…?)

――そんなことも思いつつ、ようやく翻訳に専念できる夏がやってきて、嬉々としている。籠るぞ、訳すぞ!旅するぞ!この矛盾を右往左往しながら、パワフルに訳していきます。どうぞ、見守ってやってください…!


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#モモ


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本note マガジン『いのちのじかんのまもりびと』はスティーヴ・チャンドラー著『TIME WARRIOR』の邦訳版です。全101章を、週に数チャプターずつ翻訳・配信しています。 紙媒体の発行は2022年春を予定しています。

「ちょっと変わった人」や「生きづらさを感じている人」に――「時間どろぼう」からいのちの時間を取り戻し、自分を信じて、行動してみる、大きなき…

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