西日暮里「ふくや」で秋をいただく
都内各所の写真展を自転車で回った帰り道、壱岐坂を上ったところで気付く。
「本郷台地の上を少し北上して、坂を下りればすぐ。」
寄り道をすることに決める。
本の頁を繰りながらちびちび遣る老人。
ふぐを愉しむ家族。
それぞれに、それぞれの美味しいものをいただいている。
フグの刺身を箸でざざっと攫って自分の分以上に平らげてしまうお嬢さん。
ご母堂が嘆息して曰く「ポテトチップスのように食べてしまう。」
「9歳にふぐは早かったかしら」
「早くないよ!!」
微笑ましい光景も肴に。
お会計を済ませたお客さんが、去り際に
「ご馳走様でした」
「美味しかったです」
一と声添えて行く。
良い店には、良いお客さんが付く。
上喜元を舐め乍ら、お通しで繋ぐ。
寒天寄せのホロリと崩れる食感も好きだが、口の中で溶けて行くと共に旨味の拡がる煮凝りが私は好きだ。
細長いので島らっきょうだろうか。
甘めの味噌が添えられており、独特の香りと仄かな辛味と爽やかな苦みが口の中に拡がる。
頭を落としたメヒカリのから揚げ。
ヒレと皮の香ばしさ、ほろりと崩れる身の旨さ。
きのこの天ぷら盛り合わせは塩で。
塩で食べる天ぷら。 どれくらい付けるかにいつも迷うのだけれど、控えめに少しだけ。
口の中に秋。
お酒を追加。
ゆきの美人
そうこうしているうちに、さんまの塩焼が登場。
すっかり高級魚になってしまい、これが今年の初秋刀魚。
大根おろしと「青き蜜柑」が添えられていて、佐藤春夫の「秋刀魚の歌」を思い出す。
背骨に沿って箸を入れ、上下に分離。
腹の身にはらわたをまぶしながらいただく。
はらわたが旨い。 鮮度が悪いとこうは行かない。
塩味、酸味、苦味、いろいろあったが悪くはない人生を噛み締めるような味。
刺身盛り合わせ
良いものを、少しずつ。
自分が今、何を美味しく感じているのかで、体調や気分が分かる。
まぐろと雲丹が沁みる。
・・・と言う事は分かりやすいものを欲しており、心身ともに疲れている。
労わろう。
ご馳走様でした。
(2023.10.29 記)
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