夏が最後
夏の最後にだけ見える、あの空の色を君にも見せたやりたい。
と、君が云ったことを、今年も思い出す。
結局、その最後の色が、どんな色なのか、教えてもらえなかったから、
わたしは、毎年、夏の終わり頃に差し掛かると、空を見上げる。
でも、やっぱり、いつの日の、どの時間の空の色が、
君が云った、最後の色なのかわからないので、
ただ、見上げ損になってしまう。
だけれども、毎年、こうやって、夏の消えゆく空を観察していると、
自分なりに、目安を作れるようになってきた。
入道雲の高さとか、その白に反射する夕焼けのかすむ黄色とか、
なんだか、言葉で伝えられるような代物ではないけれど、
確かに、わたしの感覚として、確立してきたように思う。
君が、あのとき、どんな空なのか、教えてくれなかったのは、
勿体ぶっていたからではなくて、
ただ、
言葉で、あらわすことが難しかったから、かもしれない。
だから、わたしにも、見せてやりたいって、云ってくれた。
そうなのかも。
わたしも、君に見せてやりたい。と、思う。
今のところ、世界でわたしだけが観測できる、この最後の色を、
わたしだけが、感じることのできる、この夏の色彩を。
今度は、わたしが、君に見せてやりたい。
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