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風乗り

 ずらりと立ち並ぶ風車が壮観だ。

 小高い、人工的に造成された丘の上に、

 直線、8kmに渡って、風車が設けられている。

 もちろん、それは風力発電用の、風車だ。

 この辺りの地下には、長大な空間が設置してあって、

 その中に、地底人が住んでいるらしい。

 という噂は、儀仗兵のように立派に、彼方まで並んでいる、風車によって、生み出された。

 やたらと長い距離、やたらとたくさん並んだ風車は、

 その地下帝国の、電力供給の全てを、地熱発電とタッグでまかなっているらしい。

 わたしとしても、つい最近までは、そんなばかな、と、

 一蹴していた、くだらない噂話に過ぎなかったのだが、

 それが、驚くべきことに、わたしは、地下帝国への入り口を発見してしまったのだ。

 それは、大して隠されているようなそぶりもなかったが、

 普通の人が見つけようにも、そもそも、足を踏み入れようともしない場所にあったので、今日まで見つからなかったのだろう。

 わたしは、ドアノブに手をかけてみたが、

 案外、いや、当然のように、簡単に開いてしまった。

 暗闇を続く、階段に足を踏み入れ、進む。

 すると、果たして、それは訪れた。

 眼前に、ひらけるどこまでも見えなくならない、莫大な景色。

 都会の雑踏のような、猥雑な、騒然とした感じが、その空間には満ちていた。

 わたしたちと、さして姿形の変わらない、地底人が、そこでは大勢暮らしていた。

 だがしかし、わたしは、ふとして、不思議に思った。

 というよりは、不自然に思ったし、辻褄が合わないと思った。

 その原因は、

 その超大な空間を照らす、煌々としたあかりは、全て、

 燃え盛る炎だった、ということだ。

 わたしは、空間を視認した次の瞬間には、その暑さに耐えきれなくなって、外界へと帰還したのだが、

 そして、頭上を見上げれば、風車が、ぐるぐると、気怠そうに回っている。

 そう。

 あの地下の世界は、まさか、電気を必要としているようには見えなかった。

 群衆は皆、毛皮のような麻のような、よくわからない茶色のぼろを着て、

 全く知的な感など醸し出すこともなく、ただ、漫然と、

 その空間に、いた、それだけだった。

 文明を感じさせるのは、唯一、やたらと大きな喋り声。

 言語はあるのだろうけれど、彼らは、なんら知的な活動をしていなかったのだ。

 原始人のようなものだった。

 彼らのその生活には、発電された電力は、全く必要でないことは、明白だった。


 ――噂は、半分は当たっていたが、もう半分は全く見当違いだった。

 たしかに地下世界は存在したが、風車は、そのために回っていたわけではなかった。

 それなら、なぜあんなにも大量の風車が、あの丘の上で、休む間もなく、回り続けているのだろうか。

 見当もつかず、類推するにも因子が足りず。

 わたしは、考えるのを諦めて、丘を後にした。

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