ゆく道くる道
ついさっきまで豆粒のようだった人影が、
夕の影が伸び始めてようやく、眼前に到達した。
「こんばんわ」
彼女、声をかけてみてやっと気がついたみたい。
「あら、こんな夕暮れにひとり?」
君が来たからひとりじゃないよ、と云おうとしたけれど、やっぱりやめた。
「君をまっていたんだよ」
「どうして?」
「久しぶりに人影が見えたから、どんなのか気になったのさ」
「それじゃあ、こんなのが来て残念ね」
「意地悪はやめておくれよ。ぼくは来てくれたのが、君で、うれしいよ」
そう云うと、彼女は少し透明な歯をみせて笑った。
「それじゃあね、逢えてよかった」
そう云って去る君の後ろ姿には、夜の青闇がそろそろかかり始めよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?