黄昏
「今日日、黄昏時、なんて時間帯は無くなった、って小説に書いてあったけれど、そんなの噓だったね」
君が、空を仰ぎ見て云った。
真昼のあたたかな感じも、夜に向かう寒々しい感じも、
どちらも、この空にはなくて、とても幽玄な景色だった。
「わたし、この時間の中に、永遠に閉じ込められていたい」
君がそう云って、わたしに背を向けた。
夕暮れが好きな君は、本当に、このまま、
この時間に縛りつけられてしまって、帰ってこないんじゃないだろうか、
と不意に、不安になった。
「大丈夫、冗談だよ」
って、云ってくれればよかったんだけれど、
君は、本当に、あの、黄昏に閉じ込められてしまった。
まれに、あの日と同じ空が、わたしの頭上を覆う日がやってくる。
そんな時は、あの日、空を仰ぎ見た展望台へゆく。
そうしたら、君がにこにこしながら、わたしを待ってる。
「久しぶり」
って、いつも先に声をかけてくれる。
だから、わたしは、まだ、勝手に行ってしまった君を叱れずに、
今日だって、夕暮れに身支度をして、
会いに行く。
君に。
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