映し
雨が降っていて。
君が泣いているように見えて。
それは、ワイパーが流しそびれた雫が、
蛍光灯の影を生んでいるから。
室内にも、雨が入ってきているような、
つんと張り詰めた寒さだった。
からだの底からどんどん冷えていく。
「もう、夜も遅いので、家に戻らなきゃ」
君がようやくそう云ってくれて、わたしたちは駐車場に足を踏み出した。
家の裏手の真っ暗な駐車場は、
雨にぬれて鏡面になっていた。
その鏡には、なぜか雲ひとつない満点の夜空が見えて、驚いた。
オリオンのベルトを探してみると、魚が跳ねた。
そして、夜空の中を泳いで消えていった。
おかしかった。
何もかもおかしかった。
何気なしに、空の様子を確認したくて、天井を仰ぎみた。
変だった。
雲があるし、雨が降るし、霧がたちこめる。
首を戻して、駐車場のアスファルトを見直すと、
それは真っ黒のアスファルトそれだけだった。
変だな、と思って首を傾げていると、
君が更に大きく首を傾げる素振りをして、
「変なの」
とつぶやいた。
帰ろう。寒いから。
夢心地のまま、傘を開いて。
家路に着く。
宙を映したアスファルトは、
今ではもう、住宅地の中の、
実に飾り気のない、
ただの駐車場の白線だけをうつしていた。
†
Kise Iruka text 103;
Astronomical mirror.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?