屋根の上
「今日も君は屋根の上にいるね」
そう云って、鳥がやってきた。
「そう云う鳥も、今日もわたしの近くにいるね」
そう云って、わたしは笑った。
よく晴れた夏の午後だ。
少しずつ傾き始めた陽光が、ちょうど、まぶたの隙間をかすめて、眩しい。
あせた赤色の洋瓦が、ちょうど良い暖かさで、わたしを包み込む。
「それにしてもさ、君はなんでいつも屋根の上にいるわけ?」
鳥が訊いてくる。
特に理由がない、と云うのがワケ、なのだけれど、
ただ思慮もなく、ひねりもなくそう云うのも、なんだか面白みに欠けるので、
ちょっと逡巡するようなそぶりを見せて、鳥に云う。
「そうだね……ここに上がってくると、もしかすると、鳥に会えるかもしれないから、かな」
鳥は、ちょっと困惑した表情を見せてから、赤くなる。
「鳥も赤面するんだ」
「うるさいっ、していない」
そうなんだ、と微笑んで、太陽を見遣ってみる。
よくよく、考えてみれば、鳥は元から、顔の周りが赤い鳥なので、赤くなってるのかどうなのか、わからない。
「まあ……わたしも君に会えるかも、って思っていつもくるんだけど」
鳥がそう云って、そっぽむく。
鳥と、こうやって他愛もない会話を楽しむ午後も悪くない。
「そしたら、また明日も来てね、鳥」
「うん、君も」
鳥は飛び立った。
純白の雲の下に、大きく羽ばたく翼が、よく見える。
屋根の上から見上げる、昼下がりの青空は、
どことなく、柔らかで、優しい感じがした。
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